みかん小説
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"ママ、弟が生まれたらママも譲るの?" 第9話

「音」

「なぁに、ママ?」

「今の夜ごはん、何がべたい?」

音はし考えてから、恐る恐る言った。 「……おうどん?」

「どうして? ハンバーグは?」

音はびくっと肩を揺らし、目を伏せた。 「ううん、おうどんがいい。おうどんなら……みんなでいっぱいべられるから」

どこまでも、どこまでも、自分を削ろうとする。 歳の子に、ここまで気を遣わせている現実が、私の全の皮膚を切り裂くように痛かった。

「……うどんも作ろうね。でもね、音の好きなハンバーグも、ママ絶対に作るからね」

音のを撫でると、音は困ったように、さく眉をげて笑った。

帰宅すると、のには甘ったるい醤油の匂いが漂っていた。 リビングに入ると、義母がすでに夕の煮物を作り終え、コタツでみかんをべていた。

「あら、遅かったじゃない。妊婦がそんなフラフラ歩き回って、何かあったら健太に申し訳がたないでしょ」

義母は私を見ようともせず、テレビに目を向けたまま言った。

私は返事をしなかった。 ただ音のを引いて洗面所へき、を洗わせ、階の子ども部へ連れてった。 「音、パパが帰ってくるまで、ここで好きな絵本読んで待っててね」

「うん」

ドアを静かに閉め、私は階へりた。

キッチンの壁にかかった計は、午を指していた。 私はダイニングテーブルの端にち、折れ曲がらないよう切に抱えてきたあのつ切りの画用を、布巾で丁寧に拭いたテーブルのに置いた。

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まだ、裏返しのままだ。

分、玄関のドアがき、健太が帰ってきた。

「ただいまー。あー、今週もやっと終わったわ」 健太は着を脱ぎ散らかしながら、嫌でリビングに入ってきた。 は曜。仕事のプレッシャーから解放され、週末の晩酌を楽しみにしている顔だった。

「お、母さん、今肉じゃが? いい匂いだな。ビールもう本蔵庫から取ってくるわ」

健太が蔵庫から缶ビールを取りし、プシュッと気いい音をててけた。 そして、いつものようにダイニングテーブルの自分の定位置にドサリと腰をろした。

義母もコタツから起きがり、「健太、今お茶碗すからね」とキッチンへ向かう。

平穏で、呑気で、残酷ながの常。

私は健太の真向かいにった。

健太がビールにをつけようとした、その瞬。

私はテーブルの央にあった裏返しの画用を、健太の目のへ滑らせた。

バサリ、と乾いた音が響いた。

「……あ? 何これ。音の絵?」 健太は片で缶ビールを持ったまま、面倒そうに線を落とした。

そして、その画用を、表に向けた。

蛍灯のいのに晒される、鮮やかな卓。 笑っているパパとママと赤ちゃん。 そして――部の隅、黒い枠線の側に描かれた、のパイプ子と、そこに縮こまるさな女の子。

健太の喉が、トクンと鳴った。

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ビールの缶を持つが、空でピタリと静止する。

「……え?」

健太のから、抜けな声が漏れた。 その線が、絵の余にかれた斉藤先の文字へと吸い寄せられていく。

『おとうとには、ママが必だから。 音はもうお姉ちゃんだから、きくなったから、ひとりでごはんをべるの。 あっちに座ったら、お肉が減っちゃうから。 音は、くで見てるだけでいいの』

文字、文字を追うごとに、健太の顔から血の気が引いていくのがわかった。 さっきまで赤らんでいた頬が、みるみるうちに気へと変わっていく。

「なに……これ……」

健太のから力が抜け、缶ビールがテーブルのでさくガタッと音をてた。

キッチンから鉢を持って戻ってきた義母が、審そうに首を傾げた。 「何よ健太、どうしたの? 美咲さん、また変なもの見せて健太を困らせてるんじゃないでしょうね」

義母がテーブルを覗き込もうとした瞬。

私は、画用のに両を広げて覆いかぶさるように置いた。 義母の汚れた線に、音の魂をこれ以触れさせたくなかった。

「お義母さんには、まだ見せません」

私のく、震えのない声に、義母がギョッとしてを止めた。

「美咲……お……」 健太が震える声で私を見げた。その瞳には、らかな揺と、底れぬ恐怖が浮かんでいた。

私は健太の目を、逃げを塞ぐように真っ直ぐに見据えた。

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