みかん小説
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"ママ、弟が生まれたらママも譲るの?" 第5話

「音……お腹、空いてない?」

私が膝をついて目線をわせると、音はさく首を横に振った。 けれど、そのお腹が、キュルル……と切ない音をてて鳴った。

音は真っ赤になって、自分のお腹をで押さえた。 そして、恐る恐る、リビングの奥につ義母の顔を窺った。

その怯えたような、の嫌を伺うような目つきを見た瞬、私の胸は完全に張り裂けた。

「お腹、空いてるよね」 私は音のさな体を抱きしめた。 「蔵庫にね、音の好きなイチゴのプリンがあるよ。今すぐべよう」

「ううん!」 音は私の胸を、さなで押し返した。 その瞳から、粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。

「プリン、いらない! 私、お姉ちゃんだから! ママがべて! ママとお腹の赤ちゃんがべて!」

「音、違うの。ママのごはんと音のごはんは、別なのよ。音がする必なんて、これっぽっちも――」

「だって!」 音は叫んだ。 歳の喉から絞りされたその叫びは、私の魂を容赦なく切り刻んだ。

「だっておばあちゃん、いつも言ってるもん! ママはお腹に弟がいるから、いっぱいべなきゃんじゃうって! 音がいっぱいべたら、ママと弟の分がなくなっちゃうんでしょ!? 音がお肉べたから、ママられたんでしょ!?」

玄関に、静寂が落ちた。

のにつ義母が、気まずそうに目を逸らした。

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だが、謝罪の言葉はひとかけらもてこない。

私は音をく抱きしめながら、え切ったコンクリートのような決を固めていた。

このままではいけない。 このにいたら、私のだけでなく、娘の魂が殺される。

その、カチャリと鍵が回り、玄関のドアが再びいた。

「あー疲れた。今いに乗れたわ……って、え? なんでみんな玄関に突っってんの?」

定で帰宅した健太が、呑気な顔で革靴を脱ぎながら入ってきた。 には、コンビニのレジ袋が提げられている。

玄関の異様な空気に気づいた健太が眉をひそめた。 「何? また何かあったの?」

音は涙を拭い、をすすりながら、健太の元を見た。 健太がコンビニ袋から取りしたのは、夜用に買ってきたシュークリームだった。

音は、びくっと肩をねさせた。 そして、泣き腫らした顔に、痛々しいほどの作り笑いを貼り付け、健太に向かってさなを差しした。

「パパ……それ、べていいよ」

健太がキョトンとする。 「え? 音、これカスタードだぞ。おの好物だろ?」

「ううん」 音はさく首を振り、歩ろにがった。

「パパべていいよ。私、お腹すいてないから。……私、もうきいから」

健太は「なんだよそれ」と笑ってシュークリームをテーブルに置いた。 何も分かっていない。 この男には、娘が今、自分の価値を削り取って差ししたことのさが、何つ見えていないのだ。

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私はちがり、壁にをついて体を支えた。 きくなったお腹の奥で、胎児が激しく暴れるように蹴りげていた。

喉の奥がカラカラに乾き、たいりが全の血液を巡っていく。

「健太」

私の乾いた声に、健太がようやく怪訝そうに振り返った。

「話がある。今夜、子どもを寝かせたら、で話しましょう」

「……は? って、母さんも?」

「そうよ」 私は義母の、落ち着きなく泳ぐ瞳を正面から見据えた。

「こののこれからのこと、全部決め直すから」

義母が息を呑む音が、狭い玄関にさく響いた。

音を寝かしつけた、夜のを回ったダイニングは、苦しい沈黙に支配されていた。

テーブルを挟んで、私の正面に夫の健太。 その隣に、腕組みをして嫌そうに顎を引く義母。

「……で? 何の話だよ、改まって」

健太が缶ビールのプルタブを指先で弾き、苛ちを隠そうともせずに言った。 炭酸の抜けるさな音が、やけに鼓膜に刺さる。

私は何も言わず、持ってきたつのものをテーブルの真んに置いた。 紺の母子健康帳。 そして、今週の妊婦健診で助産師から渡された、栄養指導の個別管理シート。

「これ、見て」

「何これ」 健太は眉をひそめ、触ろうともしない。

「私が今、妊娠ヶの体で、にどれだけのカロリーと鉄分を必としているか、健太はってる?」

「……は? るわけないだろ。そんなの医者に任せておけばいいじゃないか」

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