みかん小説
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"離婚しても、うちの嫁を辞めていいとは言ってない" 第20話

「真由美は、もうあっちとは完全に連絡取ってないの?」

「取ってないよ。スマホの番号も変えたし、LINEのアカウントもしくしたから。向こうも、もう私に連絡する法根拠がないって分かってるはずだしね」

「よかった。本当に、舟から逃げ切れてよかったよ」

久美子はそう言って、自分のバッグから冊の旅ガイドブックを取りした。

「これ、約束のやつ。来の沢旅、真由美が幹線の切符取ってくれるって言ってたでしょ? おすすめの美術館と菓子さん、付箋貼っておいたから見てみて」

表に踊る『初の沢・の女子旅』の文字。 鮮やかな兼園の写真を見つめながら、私は喉の奥が温かくなるのをじた。

自分の志で、自分のきたい所を決める。 自分の稼いだおで、自分のための切符を買う。 そんな、世では当たりのことが、今の私には奇跡のように眩しく、誇らしかった。

カフェをて、久美子と改札で別れた。 私は夕飯の買いしのために、駅ビルのへ向かって歩いていた。

には、陶芸教で焼きがったばかりの湯呑みを入れたさな袋。 淡い桜の釉薬をかけた、し歪だけどのひらにしっくりと馴染む、私だけの器だ。 今夜はこれでお茶を淹れて、千代子さんにもらったじゃがいもをべよう。

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そんなささやかな献をい浮かべながら、駅の横断歩を渡ろうとした、そのだった。

「……真由美?」

く、擦れた声が、雑踏の隙を縫って私のに届いた。

臓が瞬、トクンとねた。 、聞き飽きるほど聞いてきた声。 けれど、もう恐怖も揺も湧きがってはこなかった。

ゆっくりとち止まり、声のした方を振り返る。

駅のドラッグストアの。 特売のトイレットペーパーのと、割引の栄養ドリンクの棚のに、その男はっていた。

誠司だった。

たった半しか経っていないのに、まるで分の歳を気に吸い取られたような姿だった。 頂部の髪にはいものが混ざり、入れされていない無精髭が顎を覆っている。 着古したヨレヨレのポロシャツの裾はズボンから半分はみし、元は履き潰したスニーカーだった。 両には、所のスーパーの半透のレジ袋がつ。 には、値引きシールの貼られた惣菜パンと、齢者用の用オムツのパッケージが透けて見えていた。

「……やっぱり、真由美だ」

誠司の目が、信じられないものを見るように見かれた。 レジ袋をぶらげたまま、ふらつく取りで私の方へ歩み寄ってくる。

「お……こんなところで、何してるんだよ。連絡先も変えちまって……探したんだぞ」

私は半歩だけろにがり、定の距を保った。

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警察を呼ぶ必も、鳴り散らす必もじない。 ただ、見らぬにを聞かれたのような、礼儀正しく、しかし完全にえ切った線を男に向けた。

「お久しぶりです、誠司さん。お買い物ですか」

私の落ち着き払った声に、誠司は気圧されたように言葉を詰まらせた。 男の線が、私の姿をからへと忙しなく彷徨う。 入れのき届いた清潔なブラウス。 アイロンの効いたリネンのスカート。 穏やかにえられた髪と、うっすらとを引いた元。

かつて、あの暗い台所で、義母の顔を伺いながらボロボロのエプロンをつけていた妻の面は、どこにもなかった。

「お……なんだか、綺麗になったな」

誠司のから、掠れた声が漏れた。 その言葉の裏にある、未練と、惨めさと、放してしまったものへの悔が、に取るように透けて見えた。

「活は、どうなんだよ。で……ちゃんとえてるのか?」

「ええ、おかげさまで。職で契約社員にしていただいて、毎穏やかに暮らしています」

「そうか……そうなんだな……」

誠司は線を落とし、自分が握りしめているオムツの袋を隠すように、背のろへ回した。 その仕があまりにも卑屈で、私はのでさく息を吐いた。

「お義母さんのご様子は、いかがですか」

社交辞令として問いかけると、誠司は堰を切ったように愚痴を吐きし始めた。

「……獄だよ。毎が獄だ」

顔を歪め、首筋を掻きむしりながら、誠司はでまくしたてる。

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