"離婚しても、うちの嫁を辞めていいとは言ってない" 第16話
よくもまあ、そんな嘘を平然と吐けるものだ。 区役所で「気な顔を見るだけで寿命が縮む」「やっとうちにもまともな空気が戻る」と吐き捨てたあのが、今度は私を「実の娘」と呼んでいる。
「病院のベッドでね、で考えてたのよ。私を番分かってくれてるのは、やっぱり真由美さんだって。誠司も理恵も、私の痛いところなんてちっとも分かってくれないの。真由美さん、お願いだから戻ってきてちょうだい。私、もう度と文句なんて言わないから。事にするから……ね?」
枝がテーブル越しに、骨張ったを伸ばし、私の首を掴もうとしてきた。 かつてなら、そのを払いのけることすら罪悪に苛まれていたはずの。
私は、そのが触れる直で、すっと自分のを引いた。 枝のが空を切り、テーブルクロスのに力なく落ちる。
「お義母さん」
私の声は、内のBGMすら遮るように静かに響いた。
「、度でも私に『ありがとう』と言ったことがありましたか?」
枝のきが止まった。
「私が仕事を休んで、何も病院の廊であなたの子を押していた。夜にをしたあなたのために氷枕を用して、朝まで背をさすっていた。度でも、『助かった』と言ってくれたことがありましたか?」
「そ、それは……族なんだから、言わなくても分かってるとって……」
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「族だから言わなくていいんじゃないんです。族だからこそ、敬と謝が必なんです」
私はバッグのファスナーをけた。 から、用してきた数冊の冊子と、枚の名刺を取りす。
テーブルのに、ことんと置いた。 羊羹の包みのすぐ隣に。
表には、きな文字でこうかれていた。
『介護保険制度のてびき ~介護認定の続きとサービス利用の流れ~』 『京都〇〇区 域包括支援センターのご案内』
そして、名刺には『社会福祉士・ケアマネジャー』の肩きが刷り込まれていた。
が、息を呑んでそのを見つめた。
「これは……何だよ」
誠司が掠れた声で呟く。
「お義母さんが退院したに連絡すべき、域の窓です」
私は名刺の端を指先でトントンと叩いた。
「今、ここに来るに相談してきました。お義母さんの現の状況なら、介護認定の申請をせば、おそらく支援2か介護1がます。認定がりれば、デイサービスも使えますし、ヘルパーさんに週に数回来てもらうこともできます。通院等乗介助、いわゆる介護タクシーの配も、ケアプランに組み込んでもらえます」
「介護保険……?」
枝が呆然と呟いた。
「嫌よ、そんなの! 見ずらずのにに入り込まれるなんて恥ずかしい! 私は真由美さんにてもらいたいって言ってるのよ!」
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「お義母さん」
私はたく言い放った。
「だからこそ、制度と契約に基づいて、適切なプロのケアが受けられるんです。あなたが求めているのは、族の絆ではありません。自分に無条件で仕え、何を言っても反論せず、円の費用も発しない『都のいいサンドバッグ』です」
枝の顔が、りと恥辱で赤黒く染まっていく。
「それに、誠司さん」
私は元夫に向き直った。
「介護保険を使っても、自己負担分は発します。デイサービスの利用料、ヘルパー代、福祉用具のレンタル料。に数万円の費にはなりますが、あなたが仕事を辞めたり、キャリアを棒に振るよりはずっといはずです。妹の理恵さんと、きちんと費用を折半して支払いなさい」
「折半って……あいつ、なんてさないって……」
「それは、あなたたち実の兄妹の問題です。私には、ミリも関係ありません」
私は席をった。 膝のからコートを取りげ、腕に通す。 伝票をに取ろうとしたが、誠司がそれを制するようにを伸ばそうとした。
「真由美! 待ってくれ! 本当に……本当に俺たちを見捨てるのかよ!? も緒にいたんだぞ!?」
私はを止め、度だけ振り返った。
「見捨てたんじゃありません。あるべき所に、あるべき責任を返しただけです」
テーブルのに置かれた羊羹の包みと、介護保険のパンフレット。
かつて私を搾取し尽くしたが、その切れをにして、さく縮こまっている。
「さようなら。もう度と、私を呼ばないでください」