"離婚しても、うちの嫁を辞めていいとは言ってない" 第13話
「私はです」
私は度、く息を吸い込んだ。 たい夜の空気が肺を満たし、の芯を鋭く研ぎ澄ましていく。
「、都のいいときだけ族扱いして、いざとなったら『気な女』『子供も産めない役たず』と切り捨てたのは誰ですか。これ以騒ぐなら、今こので110番を押します。……あと秒でドアのかられなさい」
画面の向こうで、元夫の顔が絶望に歪んだ。 アスファルトに膝をついたまま、虚ろな目で受話器のレンズを見つめている。 はさらにまり、灯の鈍いが、濡れ鼠になった元夫の背を惨めに照らししていた。
ガチャリ、と隣の部のドアスコープがった。 の気配を察したのか、元夫は舌打ちをつ漏らし、ふらつく取りでちがった。 で汚れたビジネスシューズを引きずりながら、の夜のへと消えていく。
モニターの青いがフッと途切れ、画面が真っ暗になった。
私は受話器をフックに戻し、壁に額を押し当てた。 臓が激しく波打っていた。 のひらを握りしめると、爪が皮膚にい込んで痛かった。
同しそうになったか? 瞬でも、あののにびして、傘を差しそうとしたか?
……しなかった。 胸の奥をどれだけ探っても、そこにあったのは悔でも慈でもなく、「度とあの沼には戻らない」
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という、鋼のようにい拒絶だけだった。
それから、嵐のような静けさが続いた。
パート先のスーパーでは、何事もなかったかのようにが流れた。 朝に勤し、伝票の照をい、発注端末を叩き、夕方にタイムカードを切る。 誰の嫌も伺わなくていい。 誰の受診スケジュールに怯えることもない。
ただ、元義母が運ばれたという話の顛末は、わぬところからに入ってきた。 所の調剤薬局に勤めている元同僚が、休憩にそっと教えてくれたのだ。
枝は、首の骨にヒビが入り、そのまま病院の形科病棟に緊急入院したらしい。 幸い術は免れたものの、ギプス固定で最でも週の絶対静。 退院も、での歩にはリハビリと介護が必になる見込みだという。
そして、その入院続きを巡って、病院のナースステーションで修羅があったそうだ。
元夫は仕事のに病院へ駆けつけたものの、枝の限度額適用認定証の所も分からず、入院セットの着替えや着の用もできず、病棟の護師に「奥様はどうされたんですか」と聞かれて「婚しました」と逆ギレしたらしい。 方の理恵は、見いに現れるなり「私は息子の塾があるから泊まり込みなんて絶対に無理」と言い放ち、病で枝と罵りいの喧嘩を始めたという。
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「……松本さんち、本当に変なことになってるみたいよ。のお嫁さんが全部やってたは、あんなにしそうなおに見えてたのにね」
元同僚はそう言って、私に気遣わしげな線を向けた。 私はただ「そうなんですか」とく笑い、お茶を濁した。
の庭の崩壊をにして、胸がすくようながあったかと言えば、嘘になる。 ただただ、呆れていた。 私という防波堤を自ら取り壊しておきながら、押し寄せてきた現実の波にみ込まれて喚き散らしている。 その浅はかさに、寒気すら覚えた。
そのの夜、私のスマホのSMSに、見らぬ番号から通のメッセージが届いた。 着信拒否をすり抜けるために、会社の社用携帯から送ってきたのだろう。
『曜の午、駅のルノアールにいてほしい。 頼むから、度だけでいいから話を聞いてくれ。 お袋のことも、これからのことも、全部ちゃんとおに謝りたい。 もうになったりしない。頼む』
文面の最には、かつての夫の、見たこともないほど卑屈な言葉が並んでいた。
私は画面を見つめたまま、しばらく指をかさなかった。 無して消することもできた。 だが、この男はここで完全に息の根を止めておかなければ、私の職に押しかけてくるか、所にむ私の友にまで迷惑をかけかねない。
『わかりました。分だけならを取ります』
く返信を送り、私は帳をいた。 曜。