"離婚しても、うちの嫁を辞めていいとは言ってない" 第11話
理恵が真っ赤になって俯いた。 その、斜め向かいのベンチに座っていた連れの齢女性が、ひそひそと囁きう声が理恵のに届いた。
「ほら、あそこの松本さんよ。いつもはお嫁さんが付き添ってたのに」 「娘さんかしらねえ。あんなに親を鳴り散らして……怖いわねえ」 「お嫁さんがいた頃は、いつもきちんとしてて穏やかそうだったのにねえ」
理恵の背筋に、たい汗が伝った。 所迷惑。世体。 松本の『理の族』という仮面が、音をてて崩れっていく。
診察に呼ばれたのは、午を過ぎていた。 担当医は、カルテを見ながら淡々と言った。
「松本さん、回の注射から週空いてしまっていますね。定期に打たないと骨の摩擦がんでしまいますよ。それと、湿布の処方ですが、回のものがまだ余っていますか?」
「えっ……湿布ですか? お母さん、余ってるの?」
理恵が聞くと、枝はをへの字に曲げて黙り込んだ。
「らないわよ。いつも真由美さんが引きしにしまってたんだから」
医師がいため息をついた。 その溜息のたさは、曜に誠司が内科で浴びせられたものと全く同じだった。
「ご族の方、お薬の残量くらいは把握してから来てください。それから、次回はレントゲンの撮がありますから、具のないで来てくださいね」
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「あ……はい……」
診察をた理恵の取りは、鉛のようにかった。 処方箋薬局で薬を受け取り、枝をに乗せて実に送り届けたには、すでに午半を回っていた。
息子の学からの着信履歴が、件。 『お母さん、鍵がいてないんだけど』 『今、塾の模試の申し込み締切だよ』
「最悪……」
理恵は実の玄関で、キーを握りしめたままハンドルに額を押し当てた。 たった回。 たった回、母親の病院に付き添っただけで、自分のが完全に消しんだ。 事は付かず、息子の用事は滞り、夫からは嫌なLINEが届いている。
玄関のドアがき、枝がめしそうな顔でこちらを見ていた。
「理恵、お昼ご飯は? 私、朝から何もべてないんだけど」
理恵ので、何かが完全にブチ切れた。
「自分で蔵庫の物でもべなさいよ!! 私はあんたの召使いじゃないの!!」
を急発させ、逃げるようにりる。 バックミラーに映る実の扉が、歪んで見えた。 かつて真由美が、この理尽を何も、誰からの助けもなくで引き受け続けていたという事実に、理恵は激しい恐怖すら覚え始めていた。
そのの夜、関方を猛烈なゲリラ豪が襲った。
バチバチと窓ガラスを叩きつけるの音。 畳のアパートので、私は買ってきたさな文庫本を読んでいた。
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スーパーのパート仲から「これ、面いわよ」と勧められた、旅のエッセイ集だった。
、本を読むなんてなかった。 活字を目で追おうとしても、すぐに「の朝ごはんのごしらえをしなきゃ」「お義母さんの洗濯物を畳まなきゃ」と、迫観のような焦りが考を遮っていた。
自分のためだけに使う、静かな夜。 ケトルでお湯を沸かし、ハーブティーのティーバッグを沈める。 カモミールの甘いりが、の湿気を含んだ部に優しく広がっていく。
計の針は、夜零半を指していた。
そろそろ寝ようかと本を閉じた、その瞬だった。
――ピンポーン! ――ピンポン、ピンポン、ピンポーン!
静まり返ったアパートに、臓を直接掴み取られるような鋭い子音が鳴り響いた。
びくっと肩がねがる。 こんなに、誰? 聞の勧誘でも、宅配便でもあり得ない。
インターホンの受話器の横にある、さな黒モニターが青く発した。
画面を覗き込んだ瞬、私の喉からさな息が漏れた。
狭いカメラの画角のに、ずぶ濡れの男がっていた。 で額に張り付いた髪。 曲がったネクタイ。 で汚れたビジネスシューズ。 血った目で、レンズを睨みつけるようにしてインターホンを連打している。
誠司だった。
――ピンポン! ピンポン! ピンポン!
「真由美! おい、真由美! けてくれ! 頼むからけてくれ!!」
マイク越しに、の音に混ざって元夫の掠れた叫び声が響いてくる。 夜の集宅。造のアパートだ。