"離婚しても、うちの嫁を辞めていいとは言ってない" 第8話
悪かったからさ、の形科の予約だけでも……』
「お断りします」
『真由美!』
「そのファイルに、全部いてあります。駐に入るも、担当の護師さんの名も、全部。あとは、実の息子であるあなたがやってください」
『待てよ! お、も緒にいたってものがないのかよ!』
。 この男は、まだそんな言葉が私に通じるとっているのだ。 、私のを、健康を、誇りを、すり潰すようにして奪い続けておきながら、都が悪くなると『』という名の鎖を引っ張りそうとする。
「ありません」
く答えて、通話を切った。 今度こそ、着信履歴からその番号をき、ブロックボタンを迷わずタップした。
スマホの画面が暗転し、部に再び静寂が戻る。 胸の奥を触ってみる。 議なほど、波はっていなかった。 かつてなら、夫にたい言葉を投げかけただけで、晩罪悪で眠れなくなっていたはずなのに。 今の私のには、ただ乾いた砂のような静けさだけが広がっていた。
曜の夕暮れ。 パート先のスーパーの通用をたところで、待ち伏せされていた。
従業員用の駐輪。 錆びた根のに、違いなほど目つトレンチコートを着た女が腕を組んでっていた。 元義妹の理恵だった。
「やっとてきた」
私を見るなり、理恵はヒールの音をカツカツとアスファルトに響かせて詰め寄ってきた。
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バッチリと引かれたアイラインの奥の目が、憎悪に燃えている。
「話、なんで着信拒否にしてるのよ。お兄ちゃんから聞いたわよ。連絡がつかないから、わざわざここまで来させられたじゃない」
私は自転の鍵を握りしめたまま、を止めた。 制のに羽織った物のパーカー。 には、割引シールが貼られたパンの入った買い物袋。 対する理恵は、ブランド物のバッグを抱え、いかにも『庭円満な専業主婦』の装いを崩していない。 かつての私なら、この対比だけでさく縮こまっていたかもしれない。
「……何の用ですか。ここは職の敷内です。迷惑ですから帰ってください」
「用があるから来てるんでしょうが!」
理恵が周囲を気にする素振りもなく声を荒らげた。 通用からてきた同僚のパート仲が、驚いたようにを止め、りで通り過ぎていく。 線が突き刺さる。けれど、もう恥ずかしいというすら湧かなかった。
「お兄ちゃん、昨会社を全休したのよ! 事な営業の会議もすっぽかして、司から目玉らったって昨の夜、うちに泣きついてきたわ! お母さんだって、病院から帰ってきてからずっと寝込んでる! あなた、自分が何をしたか分かってるの!?」
「何をしたか、ですか」
私は自転のハンドルを握り直した。
「婚しただけです。
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法律に従って、役所に類をしただけです」
「屁理屈言わないでよ!」
理恵は歩、距を詰めてきた。 のきつい匂いが、夕暮れの湿った空気に混ざってをつく。
「婚したからって、昨までやってたことを全部放りしていいわけないでしょ! 私たち族をめちゃくちゃにする気!? お母さんの臓の薬、どれをいつませればいいかも分からないのよ! は膝のヒアルロン酸注射のなの! 誰が連れてくとってるのよ!」
「あなたか、誠司さんです」
「はあ!? ふざけないでよ!」
理恵の顔が、りで真っ赤に染まった。
「私には庭があるの! 学の息子の塾の送り迎えもあるし、夫の実への付きいだってあるのよ! なんで私が実の親の面倒まで見なきゃいけないのよ! 冗談じゃないわ!」
喉元までかかった言葉を、私はすんでのところでみ込んだ。 『自分の親の面倒を、実の娘であるあなたが見なくて、誰が見るのか』と。
だが、理恵のからびした次の言葉は、そんな正論すら々に吹きばすものだった。
「真由美さんには、子供がいないじゃない」
理恵は勝ち誇ったように、私の目を真っ向から見据えて言い放った。
「子供もいなくて、背負うものもないんだから、はいくらでもあるでしょ? スーパーのパートくらい、いくらでも休みが取れるじゃないの。
どうせアパートで、ボーッと過ごしてるだけなんでしょ? たかが週に回か回、お母さんを病院に乗せていくだけのことが、なんでできないの? そんなに性格が歪んでるから、お兄ちゃんにもを尽かされたのよ!」