"離婚しても、うちの嫁を辞めていいとは言ってない" 第2話
スーパーの売りで買った煎茶のティーバッグを、マグカップに放り込む。
お湯を注ぐと、湯気と緒にい緑のりがちった。
テーブル代わりの段ボール箱にをつき、お茶をすする。 い液体が喉を通り、え切っていた胸の奥にじんわりと染み込んでいった。
「……なんだ」
声にしてみると、その言葉は誰にも遮られることなく、角い畳に吸い込まれて消えた。
の結婚活。 子供はいなかった。 妊治療がうまくいかなかった、元夫は「おがプレッシャーをじすぎるからだ」と私を責めた。 義母は親戚ので「跡継ぎも産めない嫁をもらうと、が寂しくなるわね」と平然と笑った。
そのたびに、私は「申し訳ありません」とをげ続けた。 子供が産めない分、事を完璧にしなきゃいけない。 義母の面倒を誰よりも丁寧になきゃいけない。 そうしなければ、このに私の居所はないのだと、自分に呪いをかけ続けていたのだ。
スマホを取りし、スケジュールアプリをいた。 カレンダーには、何ヶも先までき込まれた予定がぎっしりと並んでいる。
『7/12 お義母さん 循環器内科(定期)』 『7/19 お義母さん 形科(膝ヒアルロン酸注射)』 『7/26 誠司 スーツクリーニング受け取り』 『8/9 お義母さん 科(緑内障検査)』
指先が微かに震えた。
広告
私は画面をタップし、その予定をつずつ、順番に消していった。
『予定を削除しますか?』 『はい』
画面から赤い文字が消えるたび、自分の指先から何かが抜け落ちていくような、奇妙な浮遊があった。 すべてを消し終えた真っなカレンダーを見つめながら、私はもう、温くなったお茶をみ干した。
これで、私の仕事は終わったはずだった。
婚届をしてから、ちょうど週が経った曜の夕方だった。
パート先のスーパーで品売りの発注業務を終え、バックヤードでタイムカードを押したところで、ポケットのスマホが震えた。
画面を見ると、そこには見慣れた桁の番号が表示されていた。
登録名は消したはずなのに、で網膜に焼き付いたその並びは、嫌でも誰のものかを告げていた。 松本枝。元義母の固定話からだった。
瞬、指が止まった。 臓がどくりとい音をて、胃の底がきゅっと縮みがる。 条件反射だった。、この着信音が鳴るたびに、私はどんな事のも止めて駆けつけなければならなかった。
呼吸を度して、通話ボタンを押した。
「……はい、松本です」
『ちょっと、真由美さん! 何回鳴らせばるのよ!』
受話器の向こうから、に刺さるような甲い声がび込んできた。 しの息切れと、いつも通りの嫌さが混ざった、あの声。
広告
『、朝のちょうどにで迎えに来てちょうだい。玄関先で待ってるから』
私は言葉のが理解できず、からしスマホをした。 スピーカーから漏れる声は、スーパーの更のロッカーにさく反響している。
「……お義母さん?」
『誰だとってるのよ。は第曜でしょ。病院の循環器内科の予約よ。あなたが番よく分かってるはずじゃないの。先だって、受付が分遅れただけで検査がろにずれ込んで、お昼過ぎまで待たされたんだからね。は絶対に遅れないでよ』
まくしたてるような調に、切の迷いも躊躇もなかった。 あまりの自然さに、私は瞬、自分がまだあの古い軒の台所にっているのではないかという錯覚に囚われそうになった。
喉の奥に、ざらりとした砂が張り付いたような覚が広がった。
「あの……お義母さん。私と誠司さんは、先週の曜に婚しました」
努めて平坦な声でそう返した。 話の向こうが瞬、しんと静まり返った。 だが、返ってきたのは反省でも謝罪でもなく、呆れ果てたような舌打ちの音だった。
『ってますよ、そんなこと! 役所のをしたんでしょ。誠司からも聞きましたよ』
「……でしたら、の病院はお受けできません。これからはご自分で配されるか、誠司さんに連れてってもらってください」
『はあ!? 何言ってるのよ、あなた!』
義母の声のトーンがねがった。
『誠司は仕事があるのよ! 朝から事な会議があるって言ってるじゃない! なんであの子が平の昼に、わざわざ会社を休んで病院なんかに付き添わなきゃいけないのよ!』