"夫の会社に弁当を届けたら「昔の知人」にされた" 第15話
テーブルののスマートフォンが、けたたましく震えた。
液晶画面に浮かびがる文字。 『本(義母)』
夫は救いを求めるようにスマホへびつき、スピーカーホンにして通話ボタンを押した。
「母さん! 頼むから結を説得してくれ! あいつ、横浜に来ないって……マンションも勝にキャンセルするって言いして――」
『結さん!』
受話器の向こうから、息を切らした義母の甲い声がび込んできた。
『あなた、親に向かってあんなを叩いておいて、今度は直を捨てる気かい!? 男がで恥をかいたこそ、黙って寄り添って支えるのが女の器量でしょうが! たかが若い子ので格好つけただけのことで、何をそんなにを張ってるのよ!』
相変わらずの、息子の非をすべて覆い隠すための声。 けれど、その声には以のような絶対な威圧はなかった。 どこか焦り、怯え、自の息子が転落していく現実から目を背けようとする鳴にかった。
私は夫のスマホに向かって、静かに、けれど部の空気を切り裂くような声で言った。
「お義母さん」
『な、何よ!』
「ご自分の息子の尻拭いを、の娘に押し付けるのは、もうやめてください」
話の向こうが、息を呑んで静まり返る。
「直さんが会社で嘘をつき続けたのは、お義母さんの病気のせいでも、私のせいでもありません。
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直さん自のさと、見栄と、誠実さの結果です。歳にもなったの男の責任を、いつまで母親のあなたが肩代わりするつもりですか?」
『な……っ、親に向かって、なんてを……!』
「私はもう、佐藤の嫁でも、お義母さんの介護員でも、直さんの世体を保つための盾でもありません。……失礼します」
私は夫のからスマートフォンを取りげると、通話終の赤いボタンを迷わずタップした。
プツリ、と械な切断音が響き、リビングに本当の静寂が訪れた。
夫は両をぶらげたまま、幽霊のようにち尽くしていた。 見かれた瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちる。 それは反省の涙ではなく、自分を取り巻いていた甘美な世界が完全に崩壊したことへの、子どものような怯えの涙だった。
「結……嘘だろ……。本当に、俺を置いていくのか……?」
「置いていくんじゃないわ。あなたが最初から、私を連れてかなかったのよ」
私はダイニングテーブルにづき、での薬指を掴んだ。
のみ。 毎週末の事作り、ワイシャツの洗濯、義母への気遣い、きりの夜の寂しさ。 そのすべてが染み付いたプラチナのリングを、指の節を越えて、ゆっくりと引き抜く。
スルリ、とれた。 指の根元には、うっすらとく、焼けの跡が残っていた。
指輪を、テーブルの央に置いた。
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カチリ、とい属音がさく響く。
その隣に、この部の鍵を並べた。
「の朝、引っ越し業者が来るわ。私の荷物はすべて、しく契約した目黒のワンルームに運ぶ」
「目黒……? もう部借りたのか……!?」
「ええ。この部の賃貸契約はあなたの名義だから、解約するかみ続けるかは自分で決めて。敷から私の分の負担額は引いておいたから」
夫の喉から、「あ、あ……」と壊れた械のような音が漏れた。 彼は膝から崩れ落ち、フローリングのに両をついた。
「共座の解約続きの類は、そこに置いておくわ。あなたの署名と実印が必だから、今夜にいておいて」
私は夫を瞥することもなく、寝へと歩きした。 背で、男の嗚咽がにいつくばるように響いていたけれど、私のが止まることは度もなかった。
翌朝のは、恐ろしいほど澄み切っていた。
午、際の良い引っ越し業者のスタッフたちによって、私の荷物が次々と運びされていく。 段ボール箱、わずか箱。 私のと、デザイン関連の籍と、仕事具。 で選んだ具やは、何つ持っていかなかった。 すべて、夫にくれてやるつもりだった。
夫はリビングの隅の子に座り、抜け殻のような顔でその景をただ眺めていた。 昨夜晩泣きかしたのか、瞼は赤く腫れがり、目は焦点がっていない。
最の段ボールが運びされ、部がぽっかりと広くなった。
「作業完しました。