"夫の会社に弁当を届けたら「昔の知人」にされた" 第11話
俺、学代から真面目筋で、結としか付きったことがなくて……なんか、急に取り残されたような気がしたんだ」
指の隙から、夫の歪んだ声が漏れす。
「最初は、ただ話をわせただけだった。『彼女いないのか』って聞かれて、咄嗟に『いない』って答えたら、みんながすごく親切にしてくれてさ。若のエース扱いされて、み会でもにいられて……学代に戻ったみたいで、楽しかったんだよ」
の芯が、ずきずきと痛んだ。
「野寺が入ってきたときも……あいつが俺を頼りにしてくれて、尊敬の目を向けてくれるのが、たまらなく気持ちよかった。『本さんって素敵ですね』って言われるたびに、男としての自信を取り戻せた気がしたんだ」
「男としての自信?」
私はたく問い返した。
「じゃあ、京であなたを待っていた私は何だったの? 毎週末、あなたのシャツにアイロンをかけて、好物の料理を作って、活費を半分払いながら、で部を守っていた私は……あなたにとって何だったの?」
「おのことは、本当に切だったんだよ!」
夫は顔をげ、すがるように両を伸ばしてきた。 その瞳には、本物の涙が浮かんでいた。
「結をしてたのは本当だ! おがいるから、京に帰ればホッとできた。温かい飯があって、話を聞いてくれるおがいて……だから毎週、必ず京に帰ってたんだろ!? 俺はおを捨てる気なんて、これっぽっちもなかったんだ!」
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吐き気を覚えるほどの、勝さだった。
このは、本当に何も分かっていない。 京の「全な港」と、横浜の「自由な」。 両方を放したくないから、どちらの美しいところも貪りっていただけだ。 私がどれほどの孤独に耐えていたか、どんないで「来には緒に暮らせる」という言葉を信じていたかなんて、これっぽっちも考えていなかった。
夫にとって、私は妻ですらなく、都よく帰る所を用してくれる「母親の代用品」に過ぎなかったのだ。
「……触らないで」
伸ばされた夫のを、私は静かに、けれど絶対な力で払い落とした。
夫のが宙を彷徨い、力なく落ちる。
「、会社でどうするつもり?」
私のたい問いに、夫はピクリと肩を震わせた。
「……野寺には、俺からちゃんと話す。誤解を解いて……」
「誤解? まだそんな言葉を使うの?」
私はちがり、夫を見ろした。
「あなたが撒き散らした嘘よ。あなたが自分で落としをつけなさい」
そう言い残し、私は寝へ向かい、内側から鍵をかけた。 暗のベッドに横たわっても、もできなかった。 けれど、もう涙はなかった。 のの温度が、ゼロを回っていくのをじていた。
曜の朝。 夫は逃げるように始発で横浜へ向かった。
私はいつも通り、代々にあるデザイン会社のオフィスへ社した。
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クライアントからの修正依頼、印刷会社との正のやり取り、輩デザイナーへの指示。 指先をかし、デザインソフトのアンカーポイントを調しているだけが、あの沼のような現実を忘れられるだった。
昼休み、湯でドリップコーヒーを淹れていると、アートディレクターの先輩である美咲さんが入ってきた。
「結ちゃん、ちょっと顔悪くない? 丈夫?」
美咲さんは学代からの先輩で、私の事――夫が横浜に単赴任していることも――っている数ない理解者だった。
「……美咲さん」
湯気を見つめながら、私はぽつりぽつりと、この数に起きた来事を話した。 横浜のエントランスでのこと。 野寺彩の告。 義母の臓病をダシにしていたこと。
美咲さんは最初、目を見いて絶句していたが、話がむにつれてマグカップを持つが刻みに震え、最にはりで顔を真っ赤にしていた。
「信じられない……」
美咲さんはく唸るような声を漏らした。
「何それ。最じゃない。自分のプライドと承認欲求のために、あんたのをまるごと消してたってこと!?」
「……うん」
「あんた、来締め切りの本社事の昇面談、どうするつもりだったの? 横浜に引っ越すからって、辞退する予定だったんでしょ!?」
その言葉に、胸の奥がチクリと痛んだ。
そうだった。 社内で設されるデザインチームのチーフ候補として、私に羽の矢がっていたのだ。