"夫の会社に弁当を届けたら「昔の知人」にされた" 第8話
軽だったら。 誰かを巻き込むわけにはいかない。
まるで劇の主公のように振るいながら、この若い女性にわせぶりな言葉を投げかけ、元に引き止めていたのだ。 そして同僚たちに「婚夫婦みたいだ」とやかされれば、「そこは内緒です」と嬉しそうに返信する。
妻の私が京で、きりの部で凍ご飯を温め、スーパーの特売の胸肉を料理していたその同じに。 夫は会社の経費や割り勘ので、この女性と鎌倉のある並みを歩き、恋ごっこを楽しんでいた。
「私……最です」
野寺彩が、両で顔を覆った。 指の隙から、ぽろぽろと粒の涙が零れ落ちる。
「奥様がいらっしゃるなんてにもわなくて……。あの、エントランスで直さんのネクタイを直したのも、周りからからかわれて、調子に乗っていただけなんです。『本さんの奥さん気取りか?』って言われて、どこか誇らしい気持ちになってしまっていて……本当に、ごめんなさい……っ」
内の客が、何事かとチラチラとこちらを盗み見ている。 けれど、私には彼女を責める気には到底なれなかった。
彼女もまた、利用されていたのだ。 夫の歪んだ承認欲求と、肥化したプライドを満たすための、都のいいアクセサリーとして。
「野寺さん、顔をげてください」
私は静かに言った。
広告
自分の声が、驚くほどく、え切っているのが分かった。
「あなたを責めるつもりはありません。騙されていたのは、あなたも同じですから」
「でも……っ」
「ただ、つだけ教えてください。曜の朝、受付のが言っていた『午に来た本さんの奥さん』っていうのは、誰のことだったんですか?」
野寺彩は涙を拭い、混乱したように目を瞬かせた。
「午……? あ……」
何かをいしたように、彼女の顔が歪んだ。
「曜の頃、取引先への産を買いにかけたんです。直さんに頼まれて、みなとみらいのデパで級なクッキーの詰めわせを買って……。戻ってきたとき、直さんがエントランスまで迎えに来てくれて、『ありがとう、うちの庭なパートナーが気を利かせてくれて助かりました』って、受付ので声で言っていたんです」
庭な、パートナー。
受付の女性は、その言葉をそのまま「庭のパートナー」、つまり妻のことだと受け取ったのだ。 夫はそれを訂正するどころか、野寺彩を連れて歩く優越に浸り、周囲にわざと誤解をばら撒いていた。
そして、そのわずか。 私が本物の弁当を持って現れた。
だから、あの狼狽ぶりだったのだ。 自分が撒き散らした嘘の現に、本物の妻が、作りの照り焼きチキンを抱えて現れてしまった。
広告
あのの夫の恐怖と焦りは、浮気がバレることへの恐怖ですらなく、自分が作りげた「独のイケてる先輩社員」という虚像が々に砕け散ることへの恐怖だったのだ。
背筋を、たいが吹き抜けていくようだった。
「……よく分かりました」
私は伝票をに取り、ちがった。
「おを作っていただいて、ありがとうございました。お話しできてよかったです」
「本さん!」
野寺彩が、すがるようにちがった。
「私、どうすればいいでしょうか……。直さんには、もう……」
「それは、あなたが決めることです」
私は彼女の目をまっすぐに見つめた。
「ただ、私はもう、あのの嘘の片棒を担ぐ気はありません。あなたがご自のキャリアやを守りたいなら、賢い選択をしてください」
それだけを言い残し、私はレジで分の代を支払ってをた。
品川駅の雑踏を歩きながら、胸の奥底で、何かがカチリと音をててたく固まっていくのをじていた。 しみは、もう滴も残っていなかった。 残っていたのは、底れぬ嫌悪と、というをドブに捨てていた自分に対する烈なりだけだった。
化粧へ入り、鏡のにつ。 洗面台の蛇をひねり、たいで指先を洗った。 鏡に映る自分の顔は、青ざめてはいたけれど、目だけは異様なほど冴え冴えとっていた。
その、バッグのでスマートフォンがけたたましく鳴り響いた。
画面を見る。 表示された名に、私の喉がピクリとねた。