"夫の会社に弁当を届けたら「昔の知人」にされた" 第7話
絞りすような声だった。
「曜のこと、受付から名刺を渡されて……のが真っになりました。私、本当に……何もらなかったんです。直さんが、ご結婚されていたなんて……」
顔をげた彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。 演技には見えなかった。 男を奪おうとするの傲さなど微もなく、そこにあるのは、底れぬ恐怖と自己嫌悪に怯えるの若い女性の姿だった。
「……確認させてください」
私は努めて平静な声を保ちながら言った。 を揺さぶられたら、真実を見失ってしまう。
「会社で、あのは自分のことを何て言っていたんですか?」
野寺彩は唇を噛みしめ、膝ので握りしめた拳を震わせた。
「独だと……ずっと、そう伺っていました。、直さんが横浜支社に異してこられた歓迎会のときから、ずっとです」
「……から」
「はい。その、司から『本は彼女とかいないのか?』って聞かれて、直さんは『もうくらいいないですね。そろそろ庭を持ちたいんですけど、なかなか良い会いがなくて』って、笑いながら答えていました」
喉の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
。 私たちが付きってプロポーズされ、両の顔わせをして、婚姻届をした期のすべてが、その言で消されていた。
「でも、毎週末、京に帰っていたはずですよね?」
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私は元のグラスをく握った。 たいガラスの触が、掌に痛い。
「平は横浜で暮らしをして、曜の夜には必ず京に帰っていた。それは、何て説していたんですか?」
私の問いに、野寺彩は顔を歪め、絶望な表で私を見つめ返した。
「……お母様、です」
「え?」
「直さんのお母様が、い臓の持病を抱えていらっしゃると聞かされていました」
臓の、持病。
を疑った。 千葉にむ義母の顔が、脳裏をよぎる。 先も「お友達と津温泉にってくるわ」と嫌で話をかけてきて、毎週のようにグラウンドゴルフに通っている、あの健康そのものの義母が?
「お母様が暮らしで、発作が起きると危ないからって……。だから週末は、必ず京の実へ帰って、の回りの世話や病院の付き添いをしなければならないんだって、部署の全員に話していました。曜の夜にどんなにみ会が盛りがっても、『母が待ってるから』って、終に必ず帰られて……」
野寺彩の声が、さく震える。
「フロアのみんな、直さんのことを『本当に親孝で、族いの優しいだ』って尊敬していました。私も……そんな誠実な姿を見て、すごく素敵な方だなって、勝に憧れてしまって……」
ので、バラバラだったピースが、おぞましい音をてて噛みっていく。
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親孝な息子。 病気の母親のために、自分のプライベートを犠牲にして週末を捧げる、孤独で健気な独男性。
それが、夫が横浜の職でに入れていた「極の居所」だったのだ。
同僚たちからの称賛と同。 若い輩女子社員からの、無垢な憧れの差し。 そして京へ戻れば、事を完璧にこなし、活費を半分負担し、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる都のいい妻。
夫はどちらも放したくなかったのだ。 京の定した活と、横浜の甘美な自由。 そのつの世界を両させるために、夫は義母の病気を捏造し、私というを完全に抹殺した。
「……あの、鎌倉の写真は?」
私は震える指でスマートフォンを取りし、先夜スクリーンショットを撮っておいた社内アルバムの画像を見せた。 力ので、お揃いの団扇を持って笑いう。
野寺彩は画面を見た瞬、顔面を蒼にして元を押さえた。
「これは……先の、部署の親睦会です。自由のに、たまたま直さんときりになってしまって……。『野寺さんと回れて嬉しいよ』って言われて、その……いがってしまって……」
彼女の肩が、さくする。
「直さんから、何度も言われていたんです。『野寺さんといると、すごくがらぐ』『もし俺がもっと軽だったら、すぐにでも付きってほしいくらいだ』って……。
でも、お母様の介護があるから、今は誰かを巻き込むわけにはいかないんだって……」
吐き気がした。