"夫の会社に弁当を届けたら「昔の知人」にされた" 第5話
それが、夫が横浜で作りげていた仮面だった。
震える指で、さらに別のアプリをいた。 社内の親睦グループで共されているという、写真共アプリのアイコン。 夫が以、「社内イベントの写真ががってるんだ」と見せてくれたことがあった。
アルバムの最のフォルダをく。 先の付。 「営業課 鎌倉帰り親睦会」
数枚の写真が並んでいた。 そのの枚に、目が釘付けになる。
力ので、並んで笑う夫と野寺彩。 はお揃いの団扇を持ち、まるで付きいたての恋のように肩を寄せっていた。 夫の顔には、私といるときにはもう何も見せていないような、無邪気で誇らしげな笑顔が浮かんでいる。
その写真についた、同僚たちのコメント欄。
『本先輩、野寺さんと完全に婚夫婦じゃないですか笑』 『もう付きっちゃえよー!お似いすぎる!』 『いつ籍入れるんですか?笑』
同僚たちの無邪気なやかしが並んでいた。 誰も、夫がすでに既婚者だなんて疑いもしない。 それに対する、夫自のアカウントからの返信が、番にあった。
週の付。 夫のき込み。
『あはは、そこは内緒です笑』
内緒。
その文字を見た瞬、私の界から完全にが消えった。
否定しない。 妻がいるとも言わない。 ただ、わせぶりに「内緒」と笑ってみせる。
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このは、成りきで隠していたんじゃない。 誤解を解く会がなかったわけでもない。 自分から積極に、この甘い嘘を楽しんでいたのだ。
京には、事との回りの世話をしてくれ、活費を折半してくれる従順な妻。 横浜には、自分を独の頼れる先輩として慕ってくれる、若くて綺麗な同僚。
両方を放したくないから。 どちらの甘い汁も吸い続けたいから。 だから夫は、私のを「内緒」のに塗り込めた。
シャワーの音が止まった。 音が脱所からづいてくる。
私はスマートフォンを元の位置にそっと戻し、暗がりので、じっと両を握りしめた。 爪がのひらにくい込み、微かな痛みがる。
ガチャリとドアがき、湯気をまとった夫がバスタオルで髪を拭きながらリビングに入ってきた。
「おい、結。の朝飯だけどさ――」
何事もなかったかのようにをいた夫の顔を、私は暗い部の隅から、ただ静かに見つめ返した。
曜の朝、リビングには何事もなかったかのような静寂が広がっていた。
カーテンの隙から差し込む朝の。 トースターがチンと鳴り、ばしいパンの匂いが漂う。 向かいの席で、夫はマグカップを片に、スマートフォンで経済ニュースをスクロールしていた。
昨夜、あれほど声を荒らげて私を威嚇した男と、同物とはえないほど穏やかな顔だった。
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「結、ジャム取って」
何気ない、いつも通りの声。 私は無言でイチゴジャムの瓶を夫のへ滑らせた。 夫は「サンキュー」と軽く笑い、こんがり焼けたトーストにたっぷりと塗り広げる。
「昨はさ、お互いしになりすぎたな」
夫はトーストをに運びながら、さも寛な態度を装って言った。
「おがわざわざ横浜まで来てくれた気持ちは分かってるよ。俺も仕事のプレッシャーでピリピリしてて、言い方がキツかった。そこは悪かったとってる」
咀嚼する顎のきを、私はただややかに見つめていた。 喉の奥に、苦いが張り付いているみたいに声がない。
「だからさ、もうこの話はおしまいにしよう。な?」
夫はさく笑い、私の顔を伺うように覗き込んできた。 その瞳の奥にあるのは、反省でも誠でもない。 ただ、このを適当に取り繕って、これ以面倒な追及を逃れたいという浅ましい計算だけだ。
「……ねえ」
私は乾いた唇をゆっくりといた。
「会社のたちには、いつ話してくれるの? 私と結婚してるってこと」
夫のがピタリと止まった。 トーストを持ったまま、眉にい皺が刻まれる。
「……まだそんなこと言ってんのかよ。だから、タイミングがあるって言っただろ」
「タイミングって何? 来週の曜に、朝礼で言『実は結婚してます』って言えば済む話じゃないの?」
「おには組織の論理が分かってないんだよ!」