"小一の息子の問い「ママ、僕を捨てたの?」" 第17話
「なのに……なんで……? なんで、お父さんとお母さんは……いっしょにめないの!?」
相談の空気が、完全に止まっていた。
悠真の叫び声が、コンクリートの壁にね返り、の奥でびりびりと震えている。
あの子のさな肩は、激しくしていた。 紺のランドセルが、細い背でたそうに揺れている。 固く握りしめたさな拳。 そこから、ぽたぽたと涙が落ちて、リノリウムのに濃い染みを作っていく。
パイプ子に崩れ落ちたままの夫は、両で顔を覆い、指の隙から息を漏らすことしかできなかった。 自分の子供に、ここまで剥きしの絶望を突きつけられて、返せる言葉などつも持ちわせていなかったのだ。
私は、ちがった。
腹部の傷が引きつるように痛んだが、もう関係なかった。 歩、また歩と、震えるで息子のへと歩み寄った。
「……悠真」
目のに膝をついた。 息子の目線のさまで、体を沈める。
悠真は、ビクッと体を張らせた。 られるとったのか、咄嗟に腕を顔のにげて、体を縮こまらせる。 その痛々しい仕に、胸の奥が張り裂けそうになった。
私は、あの子のさな両を、そっと包み込んだ。 たくて、汗ばんで、さく震えている。
「悠真。ママの目を見て?」
あの子の濡れた瞳が、おずおずと私を捉えた。 怯えと、罪悪と、「ぼくは捨てられるんじゃないか」
広告
という底れぬ恐怖が、その瞳の底に渦巻いていた。
「よく聞いてね。回しか言わないから、しっかり聞いて」
私は、喉の奥の震えを押し殺し、言言をあの子のに刻みつけるように言った。
「ママがお腹の術をしたのはね、悠真がわがままを言ったからじゃない。悠真が朝起きなかったからでも、ボタンを掛け違えたからでもないの」
悠真の瞳が、微かに揺れた。
「ママのお腹のにね、悪いバイキンが入っちゃったの。それだけ。の体の病気なの。悠真がどんなに泣いたって、どんなにお漏らししたって、そんなことでの体は壊れないのよ」
「……でも」
悠真の声が、掠れて途切れた。
「でも……パパが……ぼくがママを疲れさせたって……」
「パパが違ってるの」
私は、子の向こうで項垂れる夫を見ることなく、まっすぐに息子を見つめ続けた。
「パパはね、ママがんじゃうんじゃないかって、すごく怖かったの。で悠真を育てるのが、怖くてたまらなかったの。……だから、に余裕がなくなって、嘘をついちゃったの。のさを、悠真に押し付けちゃったの」
「う……っ」
悠真の喉から、押し殺したようなさな嗚咽が漏れた。
「悠真。あなたは、誰のことも守らなくていいの」
あの子の細い肩を引き寄せ、胸のに抱きしめた。 病院の消毒液の匂いは、もう私からはしない。 のの匂いと、あの子の涙の温もりが、肌を通して伝わってくる。
広告
「お父さんを守るために、いい子にならなくていい。ママをなせないために、卵焼きをしなくていい。忘れ物をしたっていいし、をこぼしたっていいの。泣いたっていいのよ」
「ママ……っ」
「子供はね、わがままを言っていいの。の顔を窺って、息を潜めてきるのが子供の仕事じゃないの」
私の腕ので、悠真のさな体が、限界まで張り詰めていた糸が切れたように脱力した。
「……うわあああああん!!」
相談に響き渡るような、声の号泣だった。
この半、あの子が度もげられなかった声。 父親ので押し殺し、夜の布団のでみ込み、原稿用のマス目の奥に封じ込めていた、歳の子供の本当の泣き声だった。
悠真は私のベージュのニットに顔を埋め、がぐっしょりと濡れるほど涙を流した。 さなが、私の背をぎゅっと掴んでさない。
「ママぁ……! ママ、ごめんなさい……! ぼく、さみしかった……! ずっと、さみしかったよぉ……!」
「うん。うん……ってるよ。ごめんね、悠真。にして、本当にごめんね……」
私はあの子の背を、何度も、何度もさすり続けた。 もう度と、この子にの都を背負わせたりしないと、胸の奥で固く誓いながら。
「……ちょっと、失礼しますよ!」
相談の引き戸が、乱暴にけ放たれた。
廊からび込んできたのは、息を切らした義母だった。
派な柄のスカーフを巻き、ブランドバッグを抱えている。