みかん小説
本棚

"小一の息子の問い「ママ、僕を捨てたの?」" 第16話

見ると、夫の顔は気に染まっていた。 だが、その唇は、まだ見苦しい言い訳を紡ごうと震えていた。

「これは……子供の像力というか、緒がし過敏になっているだけで……私はそんなつもりで言ったわけでは……」

「藤原さん」

吉岡先の声が、これまでにないほどく、たく響いた。

「悠真くんは、この作文をいたあと、私にこう尋ねてきました。『先、ぼくがもっといい子になったら、お母さんはなないで済みますか?』と」

先の目が、りに潤んでいた。

「あの子は、親の顔を窺い、親の嫌を取り、自分が良い子でいることでしか、族の崩壊をい止める方法をらないのです。これは自ではありません。……の都による、精神な虐待にい状態です」

「虐待だと!?」

夫が激昂し、パイプ子の脚をガタリと鳴らしてちがった。 額に青筋を浮かべ、先を指差す。

「言葉を選べよ! 俺がこの半、どれだけ苦労してあいつを育ててきたとってんだ! 妻が倒れて、誰も助けてくれないで、仕事と事を両させて、いつくばるいであいつをにしようとしてきたんだ! 部のが、偉そうにを挟むな!」

「亮介」

私は顔をげた。 涙でぐしゃぐしゃになった顔で、ちがる夫のジャケットの裾を掴んだ。

「……これが、あなたの言っていた『完璧な活』なの?」

広告

「せ!」

「あの子に『母親を殺すな』って脅迫して、を奪って、怯えさせて……そうやってに入れたのが、あなたの『派な父親』の座なの!?」

「うるさい! うるさい、うるさい!」

夫が狂ったように叫んだ。 その顔には、傲な父親の仮面はもうなかった。 追い詰められ、怯え、取り乱した、のれな男の顔が剥きしになっていた。

「俺だって……俺だって怖かったんだよ!!」

相談の壁に、夫の絶叫が突き刺さる。

「あの夜、救急ので……医師から『最悪の事態も覚悟してください』って同渡された、俺のがどれだけ震えたかってんのか!? おがんだら、俺でどうやってきていけばいいんだって、毎吐きそうだったんだよ! 保護者会にけば周りは母親ばっかりで、雑巾の縫い方もらなくて、憐れんだ目で見られて……!」

夫の目から、粒の涙がこぼれ落ちた。

「全部……全部、俺がコントロールしなきゃ、全部壊れちまうんだよ! 悠真が泣いたら、俺まで泣きたくなる! あいつが甘えてきたら、おをいして狂いそうになるんだよ! だから……ルールを作ったんだ! を殺さなきゃ、俺が保たなかったんだよ!!」

部のに、苦しい沈黙が落ちた。

夫は両で顔を覆い、パイプ子に崩れ落ちるように座り込んだ。 肩を激しく震わせ、子供のように泣きじゃくっている。

広告

これが、真実だった。 夫はい父親なんかじゃなかった。 妻を失いかけた恐怖と、ワンオペ育児の圧に押し潰され、狂気のコントロール欲で自分を麻痺させていただけの、くて脆いだったのだ。

けれど。

だからといって、その痛みを、歳の息子に肩代わりさせていい理由になんて、なるはずがない。

私が夫に向かってをこうとした、そのだった。

カチャリ。

相談の引き戸が、微かな音をてていた。

全員の線が、ドアへと向かった。

そこにっていたのは――。 学童保育に預けられているはずの、悠真だった。

しきすぎる紺のランドセルを背負い、両で胸元の防犯ブザーをぎゅっと握りしめたまま。 廊にいた私の姉のをすり抜けて、部のを見つめていた。

あの子の頬には、何筋もの涙の跡があった。 全部、聞いていたのだ。 父親の絶叫も、母親の慟哭も。

「……悠真」

私がちがろうとした瞬。

あの子は、耐えきれなくなったように、部のへ歩を踏みした。 ランドセルのみでふらつく体を必に支えながら、泣きじゃくる父親と、ち尽くす私を見つめ、張り裂けそうな声で叫んだのだ。

「……ぼく、もうすっごくいい子にしてるよ!!」

廊まで響き渡るような、魂の叫びだった。

「お漏らしもしてない! 卵焼きもした! おもちゃもいらないって言った! お母さんを疲れさせないように、パパの言うことぜんぶ聞いてるよ!!」

悠真は、さな拳を胸ので握りしめ、顔を真っ赤にして叫び続けた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: