"小一の息子の問い「ママ、僕を捨てたの?」" 第14話
画面に表示されていたのは、夫でも義母でもなかった。
局番から始まる、見覚えのある固定話の番号。
『〇〇〇〇学』
息が止まった。 震える指で通話ボタンを押し、に当てた。
「……もしもし」
『あ、藤原悠真くんのお母様でしょうか。突然のお話、申し訳ありません。担任の吉岡です』
く、落ち着いた女性教諭の声だった。 だが、その声音には、ただ事ではない緊迫が滲んでいた。
『お母様、ご体調がすぐれない、本当に恐縮なのですが……本、放課におをいただくことは能でしょうか。……悠真くんのことで、どうしてもお父様とお母様、おにお見せしたいものがあるのです』
曜の午分。
放課の学は、ひっそりと静まり返っていた。 児童たちの賑やかな声はもうなく、くの体育館から運部の掛け声がさく響いているだけだった。
階の奥にある『教育相談』。 曇りガラスの扉のにつと、胃の奥が雑巾のように絞られた。
「真紀、落ち着いて」
付き添ってきた姉が、私のコートの背をポンと叩いた。 「私は廊で待ってるから。言いたいことを、全部言っておいで」
ドアをノックしようとした、その瞬。
背から、荒々しい音がづいてきた。
振り返ると、スーツ姿の夫がっていた。 息を切らし、ネクタイを歪ませている。
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会社を退して駆けつけたのだろう。 その顔には、隠しようのない苛ちと焦燥が張り付いていた。
「……お、何でここにいる」
夫は私を睨みつけると、周囲を警戒するように声を潜めて威嚇してきた。
「学に何を吹き込んだ? 庭の恥を部に晒して、何の真似だ!」
「私は何も言ってないわ。担任の先から、で来てくれって話があったのよ」
「嘘をつくな!」
夫は胸ポケットから、つ折りにされた枚のの用を取りし、私の目のに突きつけた。
「いいか、話を聞くにこれにサインしろ。今すぐだ」
用の番には、朝体でこう印刷されていた。
『別居および監護に関する覚(案)』
背筋に、たいものがった。
「これ……政士に作らせたの?」
「そうだ。おの病状を鑑み、当面の監護権は夫である俺が単独でう。活費として万円を支する代わりに、おは自宅および悠真の通学半径百メートル以内にち入らないこと。……これにサインしろ。そうすれば、今の面談も俺がうまく誤魔化してやる」
信じられなかった。 学の相談のドアので、夫婦の諍いを隠蔽するために、法文を盾に妻を脅迫してくるこの男の浅ましさ。
「サインなんて、絶対にしない」
「おに拒否権なんかないんだよ! 病気で育児放棄した母親が、調で勝てるとってんのか!?」
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「育児放棄したのは誰よ!!」
私の叫びが廊に響き渡りそうになった瞬。
ガラガラ、と相談の引き戸が静かにいた。
「……藤原さん。どうぞ、へお入りください」
っていたのは、代半ばの女性教諭――悠真の担任の吉岡先だった。 く切り揃えた黒髪に、落ち着いたグレーのカーディガン。 その瞳は、廊で言い争っていた私たちを、厳しく、そしてひどく静に見つめていた。
夫は瞬に貼り付けたような笑いを浮かべ、ネクタイを直した。
「あ、吉岡先! 急な呼びしで驚きまして……仕事の都をつけてんで参りました。妻も、まだ病みがりで体調が万全ではないのですが、どうしてもと申しますので……」
いかにも「庭を支える良き父親」のトーン。 先はさく礼しただけで、夫の笑いには乗らなかった。
「どうぞ、お掛けください」
部の央には、さな丸テーブルと脚のパイプ子。 壁には児童たちが描いた季節の絵が貼られているが、部の空気は鉛のようにかった。
私と夫は、並んで子に座った。 夫はわざわざ私の隣に座り、テーブルので私の太ももを自分の膝でく圧迫してきた。余計なをくな、という無言の脅迫だった。
吉岡先は、私たちの正面に腰をろすと、元にあった茶封筒から、枚のを取りした。
学の国語の授業で使われる、縦き百字詰めの原稿用だった。
「……先、これは?」
夫が先を打つように、を乗りした。