"小一の息子の問い「ママ、僕を捨てたの?」" 第12話
寝ていただけ。
「……私、病気だったのよ」
声が震えた。 涙すらない。あまりの酷さに、全の血液が急速にえていく。
「好きで倒れたわけじゃない。あなたと悠真のために、パートと事を掛け持ちして、無理をねて……それでもきようとして、術台に乗ったのよ。それを……『寝ていただけ』?」
「結果の話をしてるんだよ!」
夫は私の言葉をゴミのように払いのけた。 そして、私の背にある段ボールのに顎をしゃくった。
「見ての通りだ。この部にはもう、おの荷物を置く所すらない。悠真が学にがって、教科も増えた。あいつの自のためにスペースが必だったんだよ。邪魔なものを片付けて何が悪い」
「のマーク……」
「あ?」
「悠真の学習子。背もたれののマークに、赤ペンでバツ印をいたのは誰?」
夫の瞳が、瞬だけ微かに揺れた。 だが、すぐにたい嘲笑が唇の端に浮かんだ。
「あんな甘ったるいデザイン、には必ない。集力を削ぐだけだ。あいつはもう、母親の趣に付きわされる幼児じゃないんだよ」
「違う」
私は歩、夫に詰め寄った。 腹部の傷が引きつり、額からや汗が流れる。
「あなたは、悠真から私を消したいだけ。自分のい通りにく、のかからないロボットに育て直したいだけよ。あの子が母親をいしたら、あなたの作った『完璧な軍隊活』が崩れるから……怯えてるんでしょ!?」
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「黙れ!!」
夫がを振りげた。
乾いた破裂音が、静かなマンションに響くかとった。 私は目を閉じなかった。 夫の歪んだ、血った瞳を睨み返した。
夫のは、宙で止まっていた。 肩を激しくさせ、歯をギリギリと鳴らしている。
そのだった。
「……パパ?」
廊の向こうから、震えるさな声が響いた。
夫の体が、ピクリと凍りついた。 振りげたを、誤魔化すように乱暴にろす。
納戸のドアの隙から、顔を覗かせたのは悠真だった。 青いスイミングキャップをにかぶり、タオルを首に巻いた姿。 そのには、濡れた着を入れるビニール袋が握られていた。
あの子の線が、私と、夫と、そして納戸の奥の段ボールへと移っていく。
「……ママ?」
悠真の丸い目が、そうに揺れていた。
「悠真、部に戻れ」
夫が、背を向けたままたく命じた。 だが、悠真のはかなかった。
「ママ、なんで……そこにいるの?」
あの子のさな指先が、段ボールにかれた『藤原真紀』の文字を指差した。 そして、その横にてかけられた、赤ペンでバツ印をつけられた自分の製子を見つめた。
悠真の顔から、さっと血の気が引いていくのが分かった。
「……パパ、これ」
「部に戻れと言ってるだろ!!」
夫の声が、狭い廊に轟いた。 壁がビリビリと震えるほどの、剥きしの暴力な声。
ヒッ、と悠真が喉を鳴らし、肩をすくめてずさりした。
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その瞳に、昨フードコートで見せたものと同じ、底れぬ恐怖が浮かぶ。
「悠真、丈夫よ、ママは――」
「触るな!」
夫が私の腕を掴み、乱暴に納戸のへと引きずりした。 怪に対する加減など、微もなかった。 玄関へ向かって突きばされ、私は壁に肩をく打ち付けた。
「てけ」
夫は玄関のドアをきくけ放った。 晩のたい気が、容赦なく吹き込んでくる。
「今すぐてけ。度とこの敷居を跨ぐな。次に勝に入ってきたら、本当に警察を呼ぶからな」
「亮介、待って! 悠真と話を――」
バタンッ!!
鼓膜が破れるような属音が鳴り響き、い防音ドアが目ので閉ざされた。
カチャリ。 内側から、チェーンが掛けられる乾いた音。
静寂が戻ってきた。
私は暗い廊で、たいコンクリートのにへたり込んでいた。 肩が痛い。 腹部の傷が、焼けるようにい。
インターホンのカメラの赤いランプが、気に私を見ろしている。 ドアの向こうからは、もう何の物音も聞こえなかった。
息子の泣き声すら、遮断されていた。
うようにしてエレベーターに乗り込み、マンションのへた。 宮の駅へと続く夜は、たいが吹き抜けていた。 灯のが、滲んでに見える。
タクシーを拾う気力すらなく、私はふらふらと歩き続けた。 臓が、肋骨の裏側で鐘を打っている。
悔しい。 惨めだ。 けれど、それ以に恐ろしかったのは、あの子の目だった。