"小一の息子の問い「ママ、僕を捨てたの?」" 第11話
「……私の部は?」
私はふらつくで、かつて夫婦の寝だった部のドアをけた。
そこには、夫のシングルベッドがつだけ、ぽつんと置かれていた。 私が使っていたベッドも、ドレッサーも、綺麗さっぱり消え失せていた。 ただ、え切ったフローリングが広がっているだけ。
背筋が、凍りついた。
本当に、処分されていたのだ。 私の居所は、物理に、このから消されていた。
「私の荷物は……どこ……?」
私は狂ったように、廊の突き当たりにある納戸――畳ほどのさなサービスルームのドアノブを回した。
ドアをけた瞬。 埃っぽい空気と共に、界にび込んできた景に、私はそのにへたり込んだ。
暗い納戸のから井くまで。 ガムテープで厳に目張りされた、箱のきな段ボールが積みげられていた。
その段ボールの側面に、太い黒マジックでかれた文字。
『藤原真紀・私物(処分)』
私のも、アルバムも、本も、結婚指輪のケースも。 すべてが、ゴミのように段ボールに詰め込まれ、納戸の奥底に封印されていた。
そして、その段ボールのにてかけるようにして置かれていたのは――。
学の入学祝いに、私が悠真のために買った、製の学習子だった。 あの子が「ママとお揃いがいい」と言って選んだ、背もたれにさなのマークが彫られた、あの子。
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のマークのに、赤ペンで、バツ印がかれていた。
「ああ……っ」
声にならない叫びが、喉から漏れた。
涙すらなかった。 あるのは、底れぬ悪寒と、の毛もよだつような恐怖だけだった。
夫は、妻を追いしたのではない。 このから、「私というがした痕跡」を、完全に抹消しようとしていたのだ。
そのだった。
カチャリ。
静まり返った部のに、信じられない音が響いた。
玄関のドアノブが回る音。
臓が、ねがった。
計を見る。 午分。 スイミングが終わるまで、まだ分はあるはずだった。
「……悠真、ハンカチ忘れただろ。取りに戻るぞ」
廊の向こうから、夫の、く苛った音がづいてきた。
廊を歩く音が、納戸のドアので止まった。
息を殺した。 肺のの空気を滴も漏らさないよう、両で固くを塞ぐ。
ガタガタと震える膝を、で必に押さえつける。 暗がりの、目のには『藤原真紀・私物(処分)』と黒マジックで殴りきされた段ボールの。
「……悠真、自分の部で着替えろ。スイミングのバッグ、玄関に置いたままだぞ」
ドアの向こうで、夫のい声が響いた。 トタトタと、息子のりの音がリビングの方へざかっていく。
その直だった。
カチャリ、と納戸のドアノブがへと回った。
隠れる所なんて、どこにもなかった。
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扉が勢いよくく。 廊のいLEDのが、埃っぽい暗に差し込んできた。
目が眩んだ。 のにつ夫の。 には、替えのハンカチと、のキー。
夫の線が、にへたり込んでいる私の顔を捉えた。
「――っ!?」
夫がく息を呑んだ。 その目が、信じられないものを見たようにきく見かれる。
静寂。 換気扇のい唸りだけが、きりの空に響いていた。
「……お」
夫の喉から絞りされたのは、驚愕ではなかった。 瞬に皮膚の底から湧きがってきた、煮えつような嫌悪とりだった。
「なんでここにいる。どうやって入った」
私は、震えるに力を込めて、ゆっくりとちがった。 納戸の壁にをつき、痛む腹部をかばいながら、夫の目をまっすぐに見据えた。
ポケットから、曜に夫が元に放り投げた真しいの鍵を取りす。 夫の目のに、無言で突きつけた。
「あなたが、くれたんじゃない」
夫の眉が、激しく引きつった。
「返せと言ったはずだ。法侵入だぞ、これは」
「法侵入……? ここは私のよ。私の名義も入ってる、私たちのマンションじゃない!」
「おのじゃない!」
夫が半歩踏み込み、い、しかしを劈くような圧迫のある声で遮った。
「半、宅ローンを払ってきたのは誰だ? 管理費を払い、固定資産税を払い、この部を維持してきたのは誰だとってんだ。
円も稼いでない、寝ていただけのが、権利だけ主張するな」
空気が凍りついた。
円も稼いでない。