"小一の息子の問い「ママ、僕を捨てたの?」" 第5話
夫は周囲の目を識してか、声のトーンを極限まで落としていたが、その瞳の奥にはギラギラとした憎悪が宿っていた。
「こんなところで、何の真似だ。恥を晒す気か」
「悠真に……会いに来たの。あの子と、ちゃんと話がしたくて」
私はちがり、夫の背に隠された息子を見つめた。 悠真は、夫の太ももに縋り付くようにして、怯えた瞳で私を見つめていた。
「悠真、話で変なこと言わせてごめんね。ママね、悠真のことが嫌いでれてたんじゃないの。病気で、ずっと病院で治療してて――」
「黙れ!」
夫が、く鋭い声で私の言葉を両断した。
「子供を混乱させるなと言っただろ! いきなり現れて、自分の都ばかり押し付けやがって。おのそういうところが、悠真を追い詰めるんだよ!」
「追い詰めてるのはあなたでしょ!? で暮らしたがってるなんて嘘をついて、あの子にどんないを――」
「嘘じゃないだろうが!」
夫が、歩に踏みしてきた。 私を威圧するように、から見ろしてくる。
「悠真はな、今から放課の民学童にくんだよ。プログラミングの体験学習があるんだ。おが勝に押しかけてきたせいで、遅刻しそうになってるのが分かんないのか?」
「学童……? そんなの、聞いてない……」
「おに相談する必がどこにある? この半、悠真の教育スケジュールを組んで、学と連絡を取りってきたのは俺だ。
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おはただの入院患者だった。部者が急にてきて、活のリズムを乱すな」
部者。
その文字が、鋭利な刃物となって胸くに突き刺さった。 私は、この子の母親なのに。 命がけで産んで、片もれずに育ててきたのに。 たった半、病気で倒れていただけで、私はこの子の「部者」にされたというの?
「悠真……」
私は夫を無して、背に隠れる息子のを取ろうと、を伸ばした。
「お願い、ママの顔を見て。ママは悠真と緒に暮らしたいの。おうちに帰りたいの」
私の指先が、息子のさな首に触れそうになった、その瞬。
ビクッ、と悠真の体がきくねた。
そして――。
あの子は、私のを、自らの志で払い除けたのだ。
パチン、と乾いた音が、の午の空気に響いた。
「……え」
私のは、宙で止まった。
悠真は、泣きそうな顔をして、夫のろへさらに体を潜り込ませた。 そして、震えるさな声で、こう呟いたのだ。
「……ごめんなさい」
私に向かってではない。 あの子は、夫を見げながら、震える声で謝っていた。
「パパ、ごめんなさい。ぼく、ちゃんとルール守るから。寄りしないで、すぐに乗るから……らないで……」
全の血が、逆流するような覚に襲われた。
何かが、決定に狂っている。 この子は、母親に会えて戸惑っているんじゃない。 母親と話すことで、父親に課された「ルール」
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を破ってしまうことを、底恐れているんだ。
「分かればいいんだ」
夫は悠真のを、見せつけるようにきなでポンポンと叩いた。 そのつきには、というよりも、調教したペットを褒めるようなたい支配のがあった。
そして夫は、の部座席のドアをけ、悠真をに押し込んだ。 バタン、といスライドドアが閉まる。 スモークガラスの向こうで、息子の怯えたような瞳が、じっと私を見つめていた。
「……満したか?」
夫が、私に向き直った。 その顔には、勝ち誇ったような、笑が浮かんでいた。
「見ての通りだ。悠真の世界にはもう、おの入る隙なんかないんだよ。あいつは俺のルールで、自してきていくことを学んだんだ。病で、いつ倒れるか分からない母親の顔を窺う活なんて、あいつにはもう必ない」
「亮介……あなた、悠真に何をしたの……?」
声が震えて、掠れた。
夫はポケットから、ジャラリと属の音をてて、キーケースを取りした。 そして、そのから本のの鍵をし、私の元のアスファルトのに、無造作に放り投げた。
チャリン、と甲い音がして、鍵が私の靴の爪先に転がってきた。
見覚えのない、ピカピカとしい鍵だった。
「……これ、何?」
「先、マンションのオートロックと玄関のシリンダーをしくしたんだよ。古い鍵はもう全部使えない」
夫はの運転席のドアにをかけ、振り返ることもせずに、酷な宣告を落とした。