"12年消えていた元夫が、娘の式で「父親」になる" 第17話
そして、その隣から、私も静かに姿を現した。
元夫の顔から、瞬で笑みが凍りついた。
「な……おら、なんで……」
「座りなさい、隆司さん」
私のえ切った声に、元夫の喉がヒクりと引き攣った。 逃げそうとずさりした元夫の背に、拓也さんが音もなく回り込み、退を塞ぐ。 周囲の客が何事かと線を向ける、元夫は狼狽しながらボックス席に押し込まれた。
テーブルのに、枚のが置かれた。 武蔵野警察署からの警告と、裁判所へ提した債権差押命令申の控え。
「これを見なさい」
私の言葉に、元夫の線が吸い寄せられるように面へと落ちた。 差し押さえ、百万円。 その数字を目にした瞬、元夫の顔が、気からのようなさへと変わっていった。
「な……んだよ、これ……」
「あなたの言う通りにしましたよ」
私はを交えず、事務な声で告げた。
「『恩を売られたらを返すのが筋』なんでしょう? あなたがに放棄し、踏み倒してきた奈緒の養育費です。利息を含めて、きっちり法に差し押さえの続きを取りました。あなたのブローカーの報酬も、座も、すべて凍結されます」
「ふ、ふざけるな!」
元夫がちがりかけたが、拓也さんがその肩をい力でから押さえつけた。
「かないでください」
拓也さんの静かな、けれど無を言わせぬ圧迫に、元夫は息を呑んだ。
広告
「警察にも被害届と診断を受理していただきました。今、奈緒や私、私の勤務先、そしてお義母さんに半径百メートル以内にづいた、そのでストーカー規制法違反および罪で逮捕されます」
「拓也君……君まで何を言ってるんだ! 俺は君たちの将来のために……!」
「黙れ」
く、けれど鋭利な声が、元夫の言い訳を両断した。 声をげたのは、奈緒だった。
奈緒は、テーブルの向こうの父親をまっすぐに見据えていた。 その瞳には、かつてあった迷いも、憧れも、恐怖すらもなかった。 そこにあったのは、完全にめ切った、絶対な拒絶だった。
「将来のため? よくそんな汚い嘘が言えるね」
奈緒の声は震えていなかった。 驚くほど澄んで、力かった。
「結婚式で、お父さんが泣きながら言ったこと……全部、私を利用するための撒き餌だったんだね。私はね、たっただけでも、お父さんにされた記憶が欲しかった。だから、お母さんを傷つけると分かっていても、お父さんの嘘を受け入れたの」
元夫は唇をわななかせ、線を泳がせた。
「奈緒、あれは……おをってだな……」
「嘘をつかないで!」
奈緒のが、テーブルをバンと叩いた。 グラスのが揺れる。
「私の記憶のにいたお父さんはね、仕事が忙しくて帰ってこられない、器用だけど優しいだった。お母さんがそうやって、ずっと嘘をついて、お父さんのことを守ってくれていたから!」
広告
元夫のきが、ぴたりと止まった。
「お母さんはね、度だってお父さんの悪を言わなかったよ。養育費が止まっても、女のと逃げたって分かっていても、私が傷つかないように、『お父さんは頑張ってる』って言い続けてくれた。……それを壊したのは、お父さん、あなた自だよ」
奈緒はバッグから、結婚式の親族集写真を取りした。 屏ので、元夫が央で誇らしげに胸を張っている写真。 奈緒はその写真を、元夫の目ので、両を使ってビリビリと真っつに引き裂いた。
乾いたの裂ける音が、元夫の臓を貫いたように見えた。
「私にはもう、父親はいません。にんだんです」
引き裂かれた写真の破片が、元夫ののテーブルに散らばる。
「度と私のに現れないで。私の名を呼ばないで。……さようなら」
元夫は、散らばった写真の残骸を見つめたまま、言葉を失っていた。 喉の奥から、ヒューヒューという掠れた音が漏れている。 自分がに入れたとっていた「都のいい父親の座」も、「を引きすための具」も、すべてが音をてて崩れったのだ。
「……隆司さん」
最に、私が声をかけた。 元夫が、すがるような目で私を見げた。 、して結婚し、に私を獄へ突き落とした男。 その男の顔には、もう何の魅力も、恐ろしさも残っていなかった。