"12年消えていた元夫が、娘の式で「父親」になる" 第13話
叫び声が途切れ、作業に再び静寂がりてくる。 臓が鐘を打っていた。膝ががくがくと震えた。 けれど、悔は微もなかった。
、私が恐れていた元夫の恫は、実態のない張り子の虎に過ぎなかったのだ。 法律という現実の鉄板のでは、あの男の嘘など、何の力も持たなかった。
だが、堵の息を吐くもなく、再びスマートフォンが鳴った。 今度は、奈緒からだった。
呼吸をして、話にる。
『お母さん……! どうして……どうしてそんなことしたの?!』
受話器の向こうから聞こえてきたのは、泣き叫ぶ奈緒の鳴だった。 過呼吸寸の、激しく取り乱した声。
『今、拓也さんのお母さんから拓也に話があって……拓也が、私を見る目が全然違うの! 「君のはどうなっているんだ」「どうして父親の嘘を止めなかったんだ」って、すごくたい顔で言われたのよ!』
「奈緒、落ち着きなさい」
『落ち着けるわけないじゃない!!』
奈緒は狂乱したように喚き散らした。
『拓也さんだけじゃない、お義父さんもお義母さんも、私のことを「嘘つきの娘」だとってる! 結婚してまだヶも経ってないのに、私の居所がなくなっちゃったじゃない! お母さんが余計なことを言わなければ、全部うまく丸く収まってたのに! どうしてお母さんは、いつも私の幸せを壊すのよ!!』
の奥で、カチンとたい氷が砕ける音がした。
広告
胸の奥を締め付けていた母親としてのが、すうっと音をてて引き潮のように引いていく。
「……私の幸せを壊す、ですって?」
私の声は、驚くほど静かだった。
「奈緒。あなた、自分が何を言っているのか分かっているの?」
『分かってるわよ! お父さんがちょっと見栄を張っただけでしょ?! 親戚付きいなんだから、適当にわせておけばよかったじゃない!』
「見栄? あれは詐欺よ」
私は淡々と、容赦なく現実を突きつけた。
「あの男はね、拓也さんのご両親から百万円を騙し取ろうとしていたのよ。自分の借を埋めるために。拓也さんのご両親の老資を奪う片棒を、あなたが担ごうとしていたのよ。それが『ちょっとした見栄』で済むとっているの?」
話の向こうで、奈緒の息が詰まった。
「もし千恵さんが私に確かめに来ず、おを渡してしまっていたらどうなっていたとう? おが消えて、あの男が逃げた、拓也さんはあなたを許したとう? 佐藤ので、あなたがどんな目で見られてきていくことになったか、像すらできないの?」
『それは……でも、お父さんはそんなつもりじゃ……』
「まだ庇うのね」
私はさくため息をついた。 もう、りすら湧かなかった。ただただ、果てしない失望とれみが胸を満たしていた。
「奈緒。あなたはね、自分の『体裁』を守るために、母親のの尊厳を踏み躙っただけじゃない。
広告
しく族になった夫と、そのご両親のまで、あの男の贄に差しそうとしたのよ」
『お母さん……』
「自分の犯した浅ましさと、ちゃんと向きいなさい。拓也さんに軽蔑されたのなら、それは母親のせいじゃない。あなたが嘘の共犯者になることを選んだ、その報いよ」
『待って、お母さん、お願い、拓也さんに説して……! お母さんから拓也さんに、「奈緒は悪くない」って言ってよ……!』
すがりつく娘の泣き声を、私はたく切り捨てた。
「言いません。自分で招いた種は、自分で刈り取りなさい。それが、の結婚というものよ」
通話を切った。 そして、奈緒の番号を着信拒否に設定した。 が震えていた。涙が、筋だけ頬を伝い落ちた。 けれど、これでよかったのだ。 私がいつまでも盾になってをかぶっていては、この子は、自分ので現実の面につことができない。
母親としての私の役目は、あの子を甘やかすことではない。 たい現実ののに、突き放すことだ。
それから。 の寒が、の灯りを厳しく揺らす曜の夜だった。
都内の版社で働く奈緒は、連の残業と、え切った婚庭の針の筵に耐えかね、やつれ果てた取りで帰についていた。 拓也とは、あれからまともな会話がない。 に帰っても、拓也はリビングに寄り付かず、寝に閉じこもったままだ。
「信用できない」