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"12年消えていた元夫が、娘の式で「父親」になる" 第10話

ここで取り乱して叫べば、千恵さんの目には「逆する偏屈な元妻」としか映らない。 あの男が周到に撒き散らした毒は、このしのぎの言い訳や、な涙で消せるほど浅いものではなかった。

「……千恵さん」

静かに、けれど芯をく据えた声で呼びかけた。 自分でも驚くほど、たく乾いた声がた。

「し、そこで待っていただけますか」

千恵さんは驚いたように目を丸くし、さく頷いた。

私は踵を返し、作業の奥にある事務所兼居スペースへとを踏み入れた。 元がふらつきそうになるのを、壁にをついて支える。 仏壇の脇に置かれた、いスチール製の庫。 ダイヤルを回す指先が、りで微かに震えていた。 へ回、へ回。 カチャリとな属音が響き、扉がく。

番奥に押し込んであった、黒い布張りのバインダー。 、度たりとも捨てることができなかった、私の屈辱との記録。 それを両でしっかりと抱え込み、私は再びカウンターへと戻った。

カウンターのに、ドスンとい音をててバインダーを置く。 千恵さんが、息を呑んでずさりした。

「文子さん、それは……?」

「これを見てください」

私は具をし、番に綴じられていた、黄ばんだのを千恵さんの目のに叩きつけるように広げた。 京都武蔵野公証役。

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部に刻印された公な印章と、菊の御紋の透かし。

「これが、に私とあのが交わした『婚付等契約公正証』の原本です」

千恵さんの線が、吸い寄せられるように類の文字へと落ちた。

公証役の公証が作成し、法な制執力を持つ公文。 言い逃れの切利かない、国関が保証した真実の記録だ。

「第3条を読んでみてください」

私の乾いた声に促され、千恵さんは恐る恐る目をらせた。

『第3条(養育費) 甲(隆司)は、乙(文子)に対し、女奈緒の養育費として、本より女が成に達するまで、毎末限り、5万円を乙の指定する座に振り込んで支払うものとする』

「……5万円」

千恵さんの唇が、さく震えた。

「ええ。教育費を全額払うどころか、取り決められたのはたったの5万円です。それも、で学学を控えた番おのかかる期に、あのが『これ以は円もせない』とゴネにゴネて、公証ので渋々サインした額です」

私はページをめくった。

「そして、ここを見てください。第5条です」

千恵さんの線が、段と張る。

『第5条(慰謝料及び清算条項) 甲は、婚姻関係破綻の主たる原因となった自の貞為を認め、乙に対する精神苦痛の慰謝料として――』

「貞……為?」

千恵さんの声が、掠れた。 品に塗り固められた顔から、気に血の気が引いていくのが見て取れた。

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「そうです。浮気です。あの男は当、勤めていた会社の代の派遣社員と関係を持ち、その女性のマンションに転がり込むために、私と歳の奈緒を捨ててをてったのです」

千恵さんは元にを当て、絶句した。 信じられないものを見るように、何度も公証の朱肉の印と、元夫の自署の跡を見比べている。

「私が無文で追いしたのではありません。あのが、女と暮らすためにを捨てたのです。このクリーニングは、私のくなった父が遺してくれたと建物です。あの男は最初から、このに対していかなる権利も持っていませんでした」

胸の奥に溜まりに溜まっていた澱が、徹な言葉となってから滑りていく。

「さらに、これを見てください」

バインダーのポケットから、もう冊の通帳を取りした。 記帳欄をき、千恵さんの指先のに滑らせる。

「あのが『文子さんが座を解約して受け取りを拒否した』と言った座です。解約などしていません。、ずっと同じ番号です」

通帳のページには、最初のヶだけ刻まれた「タカハシ リュウジ」からの5万円の入記録。 そして、ヶ目以、永に続く空。

「回です。あの男が娘のために払ったのは、わずか万円。それ以、、度たりとも振り込みはありませんでした。

督促の留を送っても、受取拒否で戻ってくるだけ。

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