"12年消えていた元夫が、娘の式で「父親」になる" 第9話
郎・拓也さんの母親、佐藤千恵さんだった。
「……お義母様?」
わず声が漏れた。 千恵さんが、こんな町のしがないクリーニングに、事の連絡もなくで訪ねてくるなど、異常事態だった。
千恵さんは、内の洗剤の匂いに微かにをひくつかせながら、無理に作ったようない笑みを浮かべた。
「突然押しかけてしまって、ごめんなさいね、文子さん。お仕事にお邪魔かしら」
「いえ……それは構いませんが、体どうされたのですか? 奈緒に、何か……?」
私の問いかけに、千恵さんはすぐには答えなかった。 級なハンドバッグを両で抱え直すと、躊躇うように線を内から私へと戻した。 その目には、単なる親戚としての気遣いではない、もっとく、い疑のが宿っていた。
「実はね、文子さん。お話ししたいことがあって、で参りましたの」
千恵さんはバッグのファスナーをけ、から冊のファイルを取りした。 沢のある表には、『世代型・都部産共同投資プロジェクト』という、いかにも胡散臭いフォントのタイトルが印刷されていた。
それを見た瞬、私の胃の底がきりきりと痛み始めた。
「昨ね、隆司さんが……奈緒さんのお父様が、主のところにいらしたのよ」
千恵さんの声が、静かな作業にく落ちる。
「拓也の将来のために、確実な資産形成のプランを持ってきたとおっしゃって。
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とてもに、主の退職の運用先としてこの事業を勧められたの。主は信に勤めておりましたから、こういう話には慎なのですけれど……隆司さんのあまりのに、し困惑しておりましてね」
血の気が引いていくのがわかった。 あの男は、もう佐藤の財産にを伸ばし始めていたのだ。 しかも、娘婿の将来を質にして。
だが、千恵さんの話は、それだけでは終わらなかった。 千恵さんは、ファイルをカウンターのに置くと、探るような、どこか憐れむような目を私に向けたのだ。
「それでね、そのお席で……隆司さんが、し昔話をされたの」
「昔話……ですか」
「ええ」
千恵さんは度言葉を切り、喉を湿らせるように息を吸った。 そして、私の胸を抉りすような言葉を、極めて穏やかな調で紡ぎした。
「隆司さん、とても辛そうにおっしゃっていたわ。、あなたがこのおの権利を独り占めするために、隆司さんを無文でから追いしたのだと……」
……は?
「奈緒さんに会わせないことを条件に、婚届に無理やり判を押させられたとおっしゃっていたのよ。本当なら教育費も全額自分が払いたかったのに、あなたがそれを頑なに拒んで、娘を父親から引きしたのだと……。文子さん、これって……本当のことなのかしら?」
カウンター越しに突きつけられた言葉のを理解した瞬、私の界が真っ赤に染まった。
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の奥で、ぶつりと何かが切れる音がした。
界が、瞬だけく滅する。 の奥でキーンという属音が鳴り響き、目のにつ千恵さんの品なボブカットが、現実を失ってぐにゃりと歪んだ。
「……追いした?」
乾ききった唇から、掠れた声がこぼれ落ちた。 指先が急速に体温を失っていく。 作業のたいコンクリートのから、気がいがり、靴越しに膝を凍りつかせていくようだった。
「私が、あのを無文で追いして……おを独り占めした?」
千恵さんは私の異様な青ざめ方に気圧されたのか、わずかに眉尻をげ、困惑したように両の袋を握り直した。
「ええ……隆司さん、涙ぐみながらそうおっしゃっていたわ。奈緒さんのためをって、自分から悪者になってを引いたのだと。でも本当は、娘を放したくなかったし、毎欠かさず仕送りをしようとしたのに、文子さんが座を解約して受け取りを拒否したって……」
受け取りを拒否した。 悪者になってを引いた。
……は? どういうをしていれば、そんな鱈目がからてくるのか。
全の毛穴が逆つような悪寒の、マグマのような激しいりが、喉元までせりがってきた。 カウンターを両でく叩きそうになる衝を、必で爪をてて抑え込む。 く、く、肺の底まで気を吸い込んだ。