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"12年消えていた元夫が、娘の式で「父親」になる" 第4話

「……もう、度と私たちのに現れないで」

私は絞りすような声で告げた。

「奈緒の結婚式は終わりました。あなたと私たちの関係は、完全に終わりです」

元夫はで笑った。

「そうはいかないよ。奈緒は俺の娘でもあるんだ。向こうの佐藤さん……郎の父親な、あれ、元の信の元専務らしいじゃないか。なかなかの柄だ。これからは親戚同士の付きいだってある。俺がいなきゃ格好がつかない面もてくるだろうさ」

信じられない。 この男は、娘の結婚を、自分の失われた世体や脈を繕うための具としか見ていない。

「さ、帰るか。駅までタクシー相乗りしていくか? で写真でも撮れば、奈緒もんだかもしれないが、まあ、おがその顔じゃ無理か」

元夫はそう言い捨てると、軽やかな取りでへと向かっていった。 私はその背に向かって、言も返すことができなかった。 ただ、え切った指先でハンドバッグの具をく握りしめることしかできなかった。

式をた、空はすでに墨の夕に包まれていた。 の夜が、着崩れた留袖の襟元から容赦なく吹き込んできて、皮膚を突き刺す。

私はでに乗り、郊の駅へと向かった。 乗り換えのホームで、きらびやかに着飾った若い女性たちの笑い声が聞こえる。 吊り革に掴まる私のは、黒いフォーマルバッグのみで鬱血していた。

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駅から歩いて分。 シャッターの閉まった商のれに、私の自宅兼仕事がある。 『クリーニング』 汚れたトタン板の文字が、灯の頼りないに照らされていた。

鍵をけてに入ると、油系溶剤のツンとした匂いと、湿った蒸気の残骸がを突いた。 これが、私の現実だ。 スポットライトも、華やかな束も、美談に酔いしれる拍もない。 の朝には、また量のワイシャツを洗濯に放り込み、いアイロンを握り続けなければならない常。

靴を脱ぎ、階の畳にがる。 帯を解き、黒留袖を脱ぎ捨ててハンガーにかけた。 鏡に映った自分の顔は、化粧が浮き、目のに濃い隈が落ちて、まるで幽霊のようだった。

「……何だったのよ、今のは」

畳のにへたり込み、両で顔を覆った。 涙はなかった。ただ、胸の奥が空洞になって、たいが吹き抜けていくような虚脱だけがあった。

奈緒のあの顔。 『お母さん、お願いだから。今だけは、何も言わないで』

あの子は、いつからあんな顔をするようになったのだろう。 婚した、歳だった奈緒は、毎晩のように泣いていた。 「お父さんは、私のことが嫌いになったの?」と問い詰めてくる娘に、私は度として「父親が浮気をしてを捨てた」とは言えなかった。 「お父さんはね、仕事が本当に忙しくて、自分のことで精杯なのよ。

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奈緒のことが嫌いになったわけじゃないの」

嘘をついていたのは、私の方だったのかもしれない。 父親を憎むことで、あの子のが傷つくのを恐れて。 父親に捨てられたという事実が、あの子の自尊を砕いてしまうのを恐れて。 私は、元夫の誠実さを、私の「優しい嘘」で覆い隠し続けてきたのだ。

その結果が、これだ。

奈緒は、父親を憎む代わりに、父親のを「仕方のないの事」として受け入れ、そして今、父親の顔無耻な嘘を「必な世体のための演」として受け入れた。 私が必に守ろうとしてきたものは、娘にとって、ただの「体裁の悪さ」に過ぎなかったのか。

部の隅に置かれたタンスの番の引きしをけた。 古い類の束の底から、冊の茶い預通帳を取りす。 ページをめくると、で途切れた振り込み履歴。 養育費、万円。入、入、入。そして、空。

その横には、私が別枠でコツコツと貯めてきた、奈緒の学学のための定期預の解約記録が残っている。 私の爪にを灯すような節約と、パートの掛け持ちと、母からの借で埋めた、何百万円もの穴。

これが、現実だ。 神聖な約束など、どこにもしなかった。 あるのは、の男の無責任な逃と、それを埋めるために擦り切れるまで働いたの女の記録だけだ。

その、暗い部ので、畳のに放りしていたスマートフォンが、く震えた。

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