"12年消えていた元夫が、娘の式で「父親」になる" 第1話
マイクが拾った微かなをすする音が、井のい披宴会にく響いた。
「過、私は……決して、父親失格の男ではありませんでした」
その声を聞いた瞬、膝のに置いていた布ナプキンを、指先が引きちぎるほどく握りしめていた。 喉の奥が、からからに干からびていく。 胃の底に、鉛を流し込まれたようないたさが広がった。
スポットライトを全に浴びてっているのは、仕てのいい濃紺のスーツにを包んだ元夫だ。 代半ばにしては髪もなく、入れされた髪を撫でつけ、ハンカチで目を押さえる仕までが、まるで台俳優のように計算され尽くしている。
「仕事に追われ、がむしゃらに働くで、娘の切な成の瞬をいくつも見逃してしまった。それは事実です」
静まり返った会に、元夫の震える声だけが染み渡っていく。 郎側の親族席からも、娘の友たちのテーブルからも、同とに満ちた線があのへと注がれているのが肌でわかった。
「ですが、今まで娘をで守り抜いてくれた元妻には、謝しかありません。男がで戦う厳しさを誰よりも理解し、庭をに支えてくれた……」
……は? 何を言っているの、このは。
ので、警報のような鋭い音が鳴り響いた。 言葉のが、すぐには処理できない。
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背筋を、氷が筋、音をてて流れ落ちていく覚がした。
で戦う? 理解して支えた?
嘘だ。 全部、真っ赤な嘘だ。
、この男がをてったのことが、網膜の裏に焼き付いてれない。 奈緒が歳、学受験を目に控えたの夜だった。 脱ぎ散らかされた靴、きっぱなしのクローゼット、そしてテーブルのに乱暴に放りされた枚の。
『もうおたちの顔を見るのも息苦しい。これ以、族という荷に縛られたくない』
そう言い捨てて、あのは若い女の元へと消えたのだ。 あれから、元夫が養育費を振り込んできたのは最初のヶだけ。 奈緒がをして夜救急に駆け込んだ夜、震えるで何度もかけた話は、留守番話にすら繋がらなかった。 翌朝になって届いたメッセージは、たった。 『もうしい活がある。度と連絡してくるな』
それなのに。 あのは今、親族や来賓の温かい涙を誘いながら、自らの無責任な蒸発を「族のための苦渋の決断」へと塗り替えている。
「どんなにれていても、私は私なりのやり方で、常に娘の背を押し続けてきました」
元夫は、婦席に座る奈緒に向かって、く、芝居がかった礼をした。
その瞬、会全体から割れんばかりの拍が湧き起こった。 郎の母親が、ハンカチを目元に当ててさく頷いているのが見えた。
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司会者が極まった声で「温かい親子の絆ですね」とマイクに吹き込んでいる。
周囲の拍の波が、鼓膜を激しく叩く。 息ができない。 胸が圧迫されて、肺に空気が入ってこない。
私はちがらなかった。 叫びしたい衝を、奥歯を砕けんばかりに噛みしめて押し殺した。 ここで私がちがり、「この男は全部嘘をついている」と叫べばどうなるか。 以かけてこのを準備し、無垢から純のウェディングドレスに着替えて幸せそうに笑っていた奈緒のれ台が、瞬で獄絵図に変わる。
母親として、それだけはできなかった。 あのがどれほど卑劣なであっても、今というだけは、奈緒ので最も祝福されるであらねばならなかった。
私のの爪を研ぐような苦労も、のあかぎれも、孤独な夜の涙も。 すべてをみ込んで、私はただ、唇の端を吊りげて微笑む形になるしかなかった。
だが、あの男の顔無耻さは、私の像を絶していた。 拍が鳴り止みかけた、元夫は再びマイクを元に引き寄せたのだ。
「そして、もうつだけ。今この席で、娘と、そして元妻に伝えておきたいことがあります」
臓が、嫌なね方をした。 元夫が、ゆっくりと首を巡らせ、私の方を見た。 脂ぎった顔に、自分だけが善であると信じ切った、あの吐き気のするような笑みを浮かべて。
「実は、私と彼女のには、婚したあのから、ずっと守り続けてきたつの約束がありました」