"歩けるようになった夫が、最初に捨てたのは私だった" 第17話
「この半、健介さんが使用された民訪問介護の費用、および転倒の緊急搬送・ショートステイの費用。これらはすべて、健介さんご本の座から適正に支払われています。賃も、費も、費も同じです」
義母をまっすぐに見据えて言った。
「健介さんは、私の介護がなくても、社会の公な制度と民のサービスを利用して、できることができています。つまり、私というが『活保持のために同居し、無償で介護を提供する理由』は、客観にも完全に消滅しました」
「あ、あんた……!」 義母がちがりかけ、着物の裾を踏んでよろめいた。
「内がいるのに、にを払っての世話をさせるなんて、世体が悪くてを歩けないじゃないの! あんたが仕事を辞めてにいれば、そんな無駄銭もかからないのよ! 嫁のくせに、自分の夫を任せにして恥ずかしくないわけ!?」
世体。 無駄。 タダ働き。
義母のから溢れる言葉は、半と何つ変わっていなかった。 のを自分の見栄のために消費することに、何の疑問も抱いていない。
私はりすらじなかった。 ただ、れだった。
「お義母さん。介護は、タダの奉仕ではありません。プロフェッショナルによる労働です。健介さんが支払っているのは無駄ではなく、の自したとして尊厳を保つための正当な対価です。
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それを『嫁がタダでやればいい』とお考えなら、それはお義母さんの認識が、現代の社会から何周も遅れているだけです」
「な……なんですって!?」
義母が絶句し、親族たちも息を呑んで顔を見わせた。 誰も、私がここまで理然と、制度と数字を盾に反論してくるとはっていなかったのだ。
義母は震える指先で、今度は隣に座る息子を指差した。
「健介! あんた、何黙って見てるのよ! この女に言ってやりなさい! 『妻なら俺の面倒を見ろ』って、ガツンと言ってやりなさいよ!」
座敷の線が、斉に夫へと集まった。
夫は、両を膝のに置いたまま、俯いていた。 肩が、刻みに震えている。
「健介!」 義母が苛たしげに声を荒らげる。
その瞬だった。
ドンッ。
夫が、てかけてあった黒いステッキを、力任せに畳に叩きつけた。 乾いたい音が、広に響き渡る。
「……もう、やめてくれ、母さん」
夫の声は、く、掠れていた。
「健介……?」
夫はゆっくりと顔をげた。 その瞳は真っ赤に充血し、唇を噛みしめすぎて血が滲んでいた。
「母さん、もうやめてくれ。俺が……俺がどれだけ惨めなことをしたか、おは何も分かってないんだ」
「何を言ってるのよ、あんたは被害者で……」
「俺が美を切り捨てたんだよ!!」
夫の号が、料亭の静寂を切り裂いた。 事故以来、義母に対して度も逆らったことのなかった男の、魂の底からの叫びだった。
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「俺は、自分のでてるようになった途端、美の顔を見るのが嫌になった! ベッドので漏らした汚物を取り替えてくれた女の顔を見るのが、自分の無力さを突きつけられているようで耐えられなかったんだ! だから、恩を仇で返して、ゴミみたいに追いしたんだよ!」
親族席から、ヒッと息を呑む音が漏れた。 叔父が固まり、義母が青ざめてずさる。
「暮らしを始めて、のに転んで……のにいつくばった、俺はようやく分かったんだ」 夫の目から、粒の涙がボロボロと畳のに零れ落ちた。
「痛くて、寒くて、けなくて……俺はまた、美を呼ぼうとした。『おが俺の妻だろ』って、話で鳴りつけた。……でも、美は来なかった」
夫は、末席に座る私を、震える目で見つめた。 その差しには、あの夜の憎悪も、傲さも、見栄もなかった。 ただ、自分のささを骨の髄までったの、痛切な悔だけがあった。
「駆けつけてくれた介護士のたちに、を拭いてもらって、着替えさせてもらって……請求を見た、目のが真っ暗になったよ。これだけの労働を、これだけの屈辱を、美は、毎で、無で背負ってくれてたんだって……その初めて、いったんだ」
夫はちがろうとして、のもつれから座卓にをついた。 それでも、義母の制止のを乱暴に振り払い、ステッキを握り直して、私のまで歩いてきた。