"歩けるようになった夫が、最初に捨てたのは私だった" 第14話
「私は、あなたのすべてを無条件で背負うじゃないわ」
私はちがり、部のデスクに向かった。 パソコンの画面をちげ、ブックマークしてあった政の窓覧をく。
「痛みがひどいなら、骨折の疑いがある。素の私が無理にに乗せたら、神経を損傷してまた歩けなくなるかもしれないのよ。あなたを本当に助けたいからこそ、私はかない。プロに任せなさい」
『美! おい、美!!』
「話、切るわよ。回線をけておかないと、救急隊やヘルパーからの確認話が取れないから。スマホのGPS、オンにしておいてね」
『美ッ――!!』
プツン。
私は指先で、通話終の赤いアイコンをタップした。
叫び声が消え、部のに、再び静寂が戻ってきた。 激しい音だけが、窓を叩いている。
臓が、鐘のように打っていた。 の先が、氷のようにたかった。 罪悪がないと言えば、嘘になる。 、誰かに尽くすこと、誰かの役につことだけを「美徳」として刷り込まれてきた私にとって、助けを求める夫を拒絶することは、自分の内臓を素で抉りすような苦痛だった。
けれど。
私はもう、あの獄には戻らない。 共倒れになる関係を「夫婦の」と呼ぶ欺瞞は、今夜で永に終わらせる。
息をく吸い込み、私はキーボードを叩いた。 夫のむ管轄の、齢者・障がい者支援の緊急ダイヤル。
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震えるで番号をプッシュし、通話が繋がるのを待った。
「あ、夜分遅くに申し訳ありません。別居の夫について、緊急の否確認と救護をお願いしたく、お話いたしました。本は半麻痺のリハビリけで、現、自宅くので転倒し、自力歩が能な状態です。……はい、所を申しげます」
事務に、正確に、必な報だけを伝える。 かつて医療器の営業として、幾度となくこなしてきた、静な業務連絡の調で。
「……なお、私は同居しておりませんし、現へ向かうこともできません。民救急の搬送費、および緊急の初期対応にかかる費用については、本の座からの引き落とし、もしくはの請求送付で処理をお願いします。契約者本の自活支援の環として、対応をお願いできますでしょうか」
話の相談員が、私の落ち着き払った声に、プロの族だと察したのか、迅速に配をめてくれた。 「わかりました。隣の提携ステーションから、介護福祉士と訪問護師を急させます。必であれば、救急の請もこちらでいますのでごください」
「よろしくお願いします」
通話を終え、スマートフォンをデスクのに置いた。
計の針は、夜のを回っていた。
の坂。 ヘッドライトのが、に塗れて倒れ込む男の姿を照らししていた。
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夫・健介は、濡れ鼠のようになって、アスファルトのたい触に歯をいしばっていた。 激痛のるをかばいながら、何度も線を坂のへと向ける。
(美が、来るはずだ) (脅せば、あいつは必ずんでくる) (俺を見捨てるなんて、あの尽くすことしか能のない女にできるはずがない)
くから聞こえてきたのエンジン音に、夫の顔にパッと堵のが差した。 「……ほら見ろ、やっぱり来た」 元に歪んだ笑みを浮かべ、助けを呼ぼうとを挙げかけた、その瞬。
坂を登ってきたのは、見慣れたがのファミリーカーではなかった。 サイドに『域包括ケア・夜緊急サポート』ときくかれた、シルバーの軽ワゴンだった。
からりてきたのは、防ジャケットを着た、屈な体つきの男性介護士と、医療バッグを抱えた女性護師のだった。
「林健介さんですね!? 丈夫ですか、かないでください!」
「……え?」
夫の喉から、の抜けた声が漏れた。
「奥様から緊急の請を受けました。肢麻痺の既往歴があるとのことですね。バイタル測ります、血圧と脈拍見ますね。さん、ストレッチャー準備して!」
「ち、違う……俺が呼んだのは、妻で……」
「奥様は『自分は介助の専な責任を負えないため、制度に基づく適切な医療・介護連携を請する』と仰っていましたよ。
ごください、提携先の形科の当直医に連絡はついていますからね」