"歩けるようになった夫が、最初に捨てたのは私だった" 第13話
ふと、玄関のシューズボックスのに置かれた、さな鏡が目に入った。
そこに映っていたのは。
髪を振り乱し、血の気を失った青い顔で、夫の命令つに怯え、びそうとしている――と何つ変わらない、私の姿だった。
――『おはそうやって、全部先回りして俺を管理する』 ――『おの顔を見るだけで、あの惨めなの全部をいすんだよ』 ――『関与除申請。本の確な表示により、配偶者を排除します』
の奥で、夫のたい罵声と、リハビリセンターの類の活字が、爆音となって蘇った。
私のが、ピタリと止まった。
ドアノブを握る指先から、体温が急速に奪われていく。
はで、轟音をててり続いている。 受話器からは、夫の鳴のような懇願が漏れ続けている。
『美!? おい、美! たのか!? くしてくれ、寒くて震えが止まらないんだ……!』
ここで、私がをらせて駆けつければ。 まみれの夫を抱き起こし、痛がる体を支えてに乗せ、病院の夜救急へ連れていけば。
夫はに謝するだろう。 「やっぱりおがいなきゃダメだ」と泣きつくだろう。 そして、怪の当てが終わり、常が戻ったその瞬から、再び私を呪い始めるのだ。
「おに惨めな姿を見られた」 「おのせいで、俺はまた自に失敗した」と。
そして私は、再び「夫を介護するだけの女」
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に逆戻りする。 織が差ししてくれた席を捨て、せっかく掴みかけた社会との糸を自ら断ち切り、あの息の詰まる密へ、自ら戻っていくことになる。
……それは、誰のためだ?
夫のため? 違う。 「誰かに必とされていないと、自分の価値を保てない」という、私の醜い依を満たすためだ。
靴べらを握るが、わなわなと震えた。
「……健介さん」
私は、ドアノブから静かにをした。 そして、からがり框(かまち)へと退りし、そこにドサリと腰をろした。
『美!? 、したのか!?』
「していないわ」
私の声は、ひどく静かだった。 自分でも驚くほど、徹な響きを帯びていた。
『……は?』
「かないわ、健介さん。私はそこへはけない」
瞬、話の向こうの音がきくなった。 夫が言葉を失ったのが、気配で分かった。
『……な、何言ってんだよ。俺がこんなに怪して、けないって言ってるんだぞ!? お、俺を見殺しにする気か!?』
「見殺しになんてしないわ。今すぐ、救急を呼びなさい」
『呼べるわけないだろ!!』 夫の声が、受話器を割らんばかりに響いた。
『こんな所で、救急なんか呼んでピーポー鳴らしてみろ! 「あそこの旦、暮らし始めた途端に転んで運ばれた」って、所にれ渡るだろ! 世体があるんだよ! おがで来て、目たないように連れて帰れば済む話だろ!!』
世体。
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この期に及んで、この男のからたのは、自分の見栄と世体だった。
私のや、私の活や、私の尊厳など、最初からミリも勘定に入っていない。 ただ、自分の都よく呼びせて、秘密を守って、を拭ってくれる「便利な」として、私を呼びそうとしている。
喉の奥で、何かがカチリと音をててえ切った。
「健介さん。あなた、私に言ったわよね」
私は膝のの撥ジャケットを、ゆっくりと畳みながら言った。
「『自分で飯をって、自分で転んで、自分で起きがる』って。『俺のに度と顔を見せるな』って」
『それは……! あのは気がってたからで……!』
「病院にも類をしたんでしょう? 『配偶者の関与除申請』。私をあなたの活から法に排除したのは、あなた自よ。都のいいだけ『妻』を呼びして、自分のプライドの尻拭いをさせないで」
『美ッ……! 頼む、悪かった! 俺が悪かったから! あとでいくらでも謝る! だから今だけは来てくれ、が……本当に痛いんだよ……!』
涙混じりの、なりふり構わない命乞い。 かつての私なら、その声を聞いただけで胸が潰れ、座してでも助けに向かっていただろう。
でも、今の私のには、さざ波つたなかった。
「私はかない」
もう度、確に告げた。
「でも、放置はしないわ。今から私が、あなたの区の域包括支援センターの夜緊急窓と、民救急のサポートに話する。
所とあなたの状況を伝えて、専のを配するわ」
『ふざけるな! にこんな姿見せられるか! おが来いよ! おが俺の妻だろ!?』