"歩けるようになった夫が、最初に捨てたのは私だった" 第12話
「その顔よ。林主任」
定を過ぎて退社した。 夜が、照った頬をましていく。 最寄り駅のスーパーで、分の惣菜とカットサラダを買った。 誰の塩分濃度も気にせず、誰の咀嚼力も考慮せず、自分のべたいものだけをカゴに入れる。
それだけのことが、胸の奥をチクリと刺した。 自由になったはずなのに、私はまだ、空っぽの鳥かごのでちすくんでいる。
の半ば、季節れのいが京を濡らしていた。
梅入りの宣言がたその、会社から支されたノートパソコンを抱えて、私はびしょ濡れになりながらアパートの階段を駆けがっていた。 残業を終え、ようやく自分の部のドアをけたのは、夜のを回った頃だった。
は、が経つにつれて激しさを増していった。 窓ガラスを激しく叩く音。 ニュース番組では、各の冠報と、元への注を呼びかけるアナウンサーの声が流れている。
夫のアパートは、駅から徒歩分の、い臓破りの坂を登りきった台にあるはずだった。 産の契約で見た所を、私は度だけ図アプリで確認したことがあった。 坂がく、幅が狭い、古い宅。
(あので、このの、買い物なんてけているんだろうか)
無識に浮かんだ考えを、首を振って振り払う。
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関係ない。 あのは「でき直す」「自分ので転んで、自分で起きがる」と言っててったのだ。 の配をする暇があるなら、の午までに仕げる見積のフォーマットを覚えるのが先だ。
パソコンをき、キーボードに指を置いた、そのだった。
テーブルの端に置いたスマートフォンが、狂ったように振し始めた。
ブーッ、ブーッ、ブーッ。
画面に浮かびがった文字を見た瞬、臓がねがった。
『健介』
てってから、度も鳴らなかった名。 活費の催促のLINEも、事務連絡も、すべて無し続けていた夫からの、ヶぶりの着信だった。
指先が凍りついたようにかない。 ディスプレイが激しく滅を繰り返す。 度切れ、秒もしないうちに、再び着信音が鳴り響いた。
尋常ではない焦り。 胸騒ぎが、全の毛穴をかせる。
回目のコールの途で、私はたまらず通話ボタンをスワイプした。
「……もしもし」
受話器にを当てた瞬、び込んできたのは、の声ではなかった。
ヒューッ、ヒューッという、引きちぎられるような荒い呼吸音。 そして、激しいの音と、いものが擦れう鈍い音。
『……み、わ……』
夫の声だった。 だが、あの餐卓で私を酷に見ろした男の声ではなかった。 歯がガチガチと激しく打ち鳴らされ、恐怖で裏返った、聞いたこともないほどけない喘ぎ声だった。
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「健介さん!? どうしたの、どこにいるの!?」
『た、頼む……美……来てくれ……けないんだ……!』
「けないって、どういうこと!? 部のにいるの!?」
『坂の……途の……コンビニの裏の、だ……。転んだんだ……が、言うことを聞かなくて……てない……誰も、通らないんだ……寒い……頼むから、く来てくれ……!』
受話器の向こうから、ぐじゅり、とがねる音がした。 夫は、ので面にいつくばっている。
ので、警報が鳴り響いた。 半麻痺から回復したばかりのが、の夜にアスファルトで転倒したのリスク。 腿骨の骨折、関節の脱臼、体温症、部打撲による蓋内血。
パブロフの犬のように、叩き込まれた「介護者」としての反射回が、考よりも先に体を突きかした。
「今どこ!? 何が見える!? は打ってないのね!?」
『は……丈夫だ……でも、が……かない……激痛がして……腰が抜けたみたいに……美、頼むよ、おしかいないんだ……!』
話の向こうで、歳の夫が、泣いていた。 あの事故の直、集治療で私のを握りしめて泣きじゃくったと、まったく同じ声だった。
「すぐく! かないで、を避けられる所にしでもって……」
通話を繋いだまま、私はハンガーから撥加の着をひったくり、のキーと財布を掴んだ。 靴を履くも惜しく、裸のまま玄関へと駆け込む。
にり、スニーカーのかかとに指を突っ込んだ。
靴べらを握り、ドアノブにをかけた、その瞬。