"歩けるようになった夫が、最初に捨てたのは私だった" 第11話
って言わないこと。 面接官が見ているのは、あなたが誰のためにきてきたかじゃない。 これから、うちの会社で何ができるかだけだから』
画面の文字が、滲んで揺れた。
私はファスナーからをした。 え切った寝の真んで、スーツの襟を握りしめたまま、奥歯をギリギリと噛みしめた。
戻りはできない。 介護に逃げることも、被害者の殻に閉じこもることも、もう許されない。
私を捨てた夫の音も、私を拒絶した娘の背も、全部この背に背負ったまま。 私は、この壊れかけた体つで、もう度、自分のでちがらなければならなかった。
しい職で与えられたデスクの隅には、見たこともない画面のワイドモニターが鎮座していた。
「林さん、先の納品データの消込、まだですか? クラウドの受発注システム、先週マニュアル渡しましたよね」
代半ばの女性社員が、眉をひそめて私の元を覗き込む。 爪には綺麗にえられたベージュのネイル。 その指先が、流れるようなつきで私のマウスを奪い、カタカタと、度クリックしただけで、私が分かけて探せなかった売管理画面を瞬で呼びした。
「ショートカットキー、使ってくださいね。いちいちカーソルかしてたら、夕方の荷締め切りににわないんで」
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「……すみません。すぐやります」
をげると、首のろにじっとりとたい汗が滲んだ。
かつて、部を束ねていた営業主任。 病院の購買部相に、数千万円の器導入をプレゼンし、MVPのトロフィーを受け取ったことすらあった。 そんな栄は、このフロアの誰もらない。
っているのは、歳で入ってきた途の契約社員が、キーボードを打つ指先をおぼつかなく震わせ、最の業務ソフトのエラー画面がるたびにオロオロしているという、無様な現実だけだった。
。 私の指先が覚えていたのは、キーボードの配列ではなく、夫のオムツのテープを均等な力で止める覚だった。 私のが暗記していたのは、製品の型番ではなく、夫が朝むべき血圧剤と筋弛緩剤のミリ数だった。
午。 オフィスの計を見げるたび、胃の奥がきゅっと縮む。 (健介さんの、午の体位変換のだ) 条件反射のように湧きがる焦燥。 次の瞬、(あ、もうあのの世話はしなくていいんだった)と気づき、虚しさが元からいがってくる。
習慣とは、呪いのようなものだ。 あれほど私を罵り、ゴミのにの記録を捨てててった男の活リズムが、今も私の体内計を狂わせている。
「林さん、ちょっといい?」
定を過ぎたフロアで、織に声をかけられた。
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会議のいドアが閉まると、織はに持っていたのバインダーをテーブルに置いた。
「どう? ついていけそう?」
「……迷惑ばかりかけて、本当に申し訳ないわ。画面の操作つ取っても、とはまるで違ってて」
けなさに消え入りそうな声で答えると、織はフッとさく息を吐いた。
「当たりよ。この業界のは、昔の分くらい化してるんだから。最初から完璧にできるなんてってない」
織はバインダーをき、私に向き直った。
「でもね、美。あなた、話を取るとき、相の声ばかり伺ってペコペコしすぎ。昔のあなたのみは、相が何を求めているかを正確に嗅ぎ分ける図太さだったはずよ。今のあなた、まるで『られないように怯えてる』みたいに見える」
図太さ。 そんなもの、とうの昔に削り落とされてしまった。
相の嫌を損ねないように。 夫が「惨めだ」と爆発しないように。 義母から「気の利かない嫁」と罵られないように。 息を潜め、自分の気配を消し、相の顔という氷のをすりで歩き続けた。 そのに、私は自分の輪郭を完全に失ってしまっていたのだ。
「……取り戻すわ。絶対に」
膝ので、スカートのをぎゅっと握りしめた。
「織が拾ってくれたこの席、絶対に放さない。からは、システムのマニュアルを全部プリントアウトして、で叩き込んでくる」
織は私の顔をじっと見つめ、それから元をわずかに緩めた。