"歩けるようになった夫が、最初に捨てたのは私だった" 第10話
『また族が倒れたら突発に休むんじゃないか』『本のメンタルが介護で削り切られていて、職のストレスに耐えられないんじゃないか』って見られるから」
「そんな……私はもう、夫の介護からは完全に解放されたのよ! 夫はで暮らしてるんだから!」
「それを面接官にどう証するの?」 織は淡々と問いかけてきた。
「『夫が治った途端にてったので、今は介護の必がありません』って馬鹿正直に言うの? そんな沼の庭環境を抱えた歳を、誰が雇いたがるとう? 会社は慈善事業じゃないの。同でお料は払えないのよ」
反論の言葉が、つもてこなかった。 織の言うことは、あまりにも正論で、あまりにも残酷だった。
私が捧げてきたの献は、庭内では「夫のプライドを傷つける荷」として切り捨てられ、社会にれば「キャリアに傷をつけたリスク因」として警戒される。
どこにも、私の居所はなかった。 どこにも、私の頑張りを認めてくれる所なんてしなかったのだ。
「……じゃあ、私はどうけばいいの」
掠れた声で尋ねる私に、織はバッグから枚のメモ用を取りし、ボールペンでサラサラと文字をき留めた。
「『の都により退職』。それだけでいい。面接で突っ込まれたら、『族の健康のサポートが段落し、今は自のキャリアに専できる環境がった』とだけ答えなさい。
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介護の詳細も、夫との関係の破綻も、絶対ににしちゃダメ」
織はメモを私のに滑らせた。
「チャンスはあげる。面接のセッティングもする。でも、そこから先は美、あなた自の戦いだよ。『夫に尽くして裏切られたな妻』の顔のまま面接に来たら、私がそので落とすからね」
厳しい言葉だった。 けれど、その奥に、私をもう度「自したの」として引っ張りげようとする、織なりの覚悟があることが分かった。
「……ありがとう、織」
「お礼は、内定を取ってからにして」 織はフッとさく笑い、伝票をにとってちがった。
「昔のバリバリやってた林主任をいしなさいよ。あの頃のあなた、すごくかっこよかったんだから」
夜、暗い自に戻った私は、クローゼットの奥から、度もを通していなかった黒のパンツスーツを取りした。
営業主任代、勝負のプレゼンのに必ず着ていた、仕ての良いウールのスーツ。 ハンガーからし、カバーのビニールを破く。 防虫剤のツンとした匂いに混じって、あの頃の自分がまとっていた、微かなの匂いが蘇る。
を脱ぎ、いシャツに腕を通す。 ボタンを留め、スラックスにを入れた。
スッ、とは通った。 けれど。
ウエストのホックを留めようとした瞬、がパツパツに張り詰めた。
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息を吸い込み、腹を凹ませて、無理やりファスナーを引きげようとする。
――ジジッ。
途で、属の具が鳴をげて止まった。
、しゃがんだり抱え起こしたりしやすいように、ウエストがゴムのイージーパンツばかり履いていた。 髪を振り乱し、すっぴんで、の体ばかりを気遣って、自分の体がどれほど崩れて肥え太っていたのか、気づきもしなかった。
鏡のにった。
ファスナーが半分いたままのスラックス。 疲れ切ってたるんだ顎のライン。 入れを怠り、毛先がパサついたボサボサの髪。 鏡のに映っていたのは、かつて部を率いて胸を張っていた営業主任の姿などではなかった。
ただの、くたびれ果てた、誰からも必とされなくなった代の女だった。
「……っ」
ファスナーを無理やり引きげようとして、指先に爪がい込み、痛みがった。 がらない。 どう掻いても、ファスナーはがらない。
まるで、の自分には、もう度と戻れないのだと告げるかのように。
その、リビングのテーブルのに置いてあったスマホが、く震えた。
画面がる。 夫からでも、義母からでも、娘の遥からでもなかった。
織からのメッセージだった。
『美、来週の曜、14から役員面接決まったよ。 もう度だけを押しておくね。 空の、絶対に「夫を介護していました」