"歩けるようになった夫が、最初に捨てたのは私だった" 第9話
の完全なブランクがある方を、以と同じ主任待遇で迎える企業は、まずありません。般事務のパートか、あるいは……ご経験を活かして、実際の介護現でのヘルパー職などはいかがですか? 介護福祉士の資格がなくても、の施設ならすぐに決まりますが」
「ヘルパー……?」
私の喉から、乾いた笑いが漏れそうになった。
で、夫の排泄物を処理し、体を拭き、尊厳を削り取られるような介護活を送ってきた。 その果てに放りされて、でもまた、のの世話をしてきろというのか。
「……営業の、正社員で探したいです。収はがっても構いませんから」
相談員はそれ以何も言わず、検索画面からプリントアウトした数枚の求票を私に渡した。 『未経験歓迎』『学歴・齢問』とかれた、宅リフォームのテレアポや、完全歩制の保険営業のチラシばかりだった。
駅のホームのベンチで、たい缶コーヒーを握りしめながら、スマホの連絡先をいた。 スクロールしていくと、懐かしい名が目に入った。
『森田織』
かつて同じ医療器メーカーで、切磋琢磨した同期だった。 私が退職した、彼女は順調に世し、今は堅の介護サプライ企業で営業部を務めていると、の噂で聞いていた。
迷いはあった。 惨めな姿を見せたくないというプライドもあった。
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でも、背に腹は代えられなかった。
震える指で、メッセージを送った。 『織、お久しぶりです。突然で本当にごめんなさい。実は今、仕事を探していて……しだけでも、お話しさせてもらえないかな?』
送信ボタンを押してから、分も経たないうちに、スマホが震えた。
『美!? ずっと連絡待ってたよ! 旦さんのこと、しは落ち着いたの? 今の夜、座のオフィスくまで来られる? お茶しよう』
画面の文字を見た瞬、張り詰めていた緊張がほどけて、界が滲んだ。 まだ、私を「林美」として覚えていてくれるがいた。 それだけで、暗のに筋のが差したような気がした。
午。座の裏通りにある、落ち着いた喫茶。
仕ての良いネイビージャケットを着こなした織は、と変わらない、いや、それ以に洗練されたキャリアウーマンの佇まいをしていた。
「美、痩せたね……」 織は私の顔を見るなり、痛ましそうに息を呑んだ。
「々、あったのね」
私は、この週に起きたことを、かいつまんで話した。 夫が歩けるようになり、突然暮らしを始めててったこと。 婚届を突きつけられたこと。 もう度、社会にて働きたいということ。
織は注文したハーブティーにをつけず、私の話を最まで静かに聞いてくれた。
「……そう。変だったね、美。
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本当によく頑張ったよ」
「ありがとう、織。それでね、もしお宅の会社で、事務でもアシスタントでも、空きがあればとって……もちろん、昔と同じように扱ってくれなんて言わない。雑用からでも何でもやるから」
すがるようにを乗りす私を、織はまっすぐに見つめ返した。 その瞳には、友としての優しさと、それ以に――徹な「管理職」としてのが宿っていた。
「美。友達としてじゃなく、採用を担当するとして、本音を言っていい?」
「……ええ」
「うちの営業部で、来から産休に入る子の代替で、営業アシスタントの枠がつ空くのは確かよ。契約社員だけど、実績次第で正社員登用のもある」
臓が、トクンとねた。
「本当!? 私、やるわ。どんなシステムでもから覚えるし、残業だって……」
「待って、美」 織は静かにをかざして、私の言葉を遮った。
「来週、役員面接の推薦枠にあなたの名をすことはできる。でもね、履歴に『夫の介護のために退職、の宅介護を経て現に至る』なんていたら、発で落とされるよ」
をで殴られたような衝撃だった。
「どうして……? 親の介護や夫の病で仕事をれるのは、正当な理由じゃないの? 遊んでブランクを作ったわけじゃないのに」
「企業から見れば、遊んでいようが介護していようが、『ビジネスの現かられていた』という事実は同じなの」
織の声は、容赦がなかった。
「特に宅介護を理由に挙げるはね、採用側から番敬されるのよ。