"歩けるようになった夫が、最初に捨てたのは私だった" 第8話
「何言ってるの……遥のことも、ちゃんと気にかけてたじゃない。仕送りだって、お父さんの保険から削って、毎欠かさず……」
「おの話じゃないよ!」 遥が顔をげた。 その瞳は、赤く潤んでいたけれど、涙は零れ落ちなかった。 ずっと昔に、泣くことを諦めてしまった子どもの目だった。
「私が学を卒業した、お母さん、何て言ったか覚えてる?」
のが真っになる。 の。夫が転院したばかりで、番症状が定だった期。
「『卒業式、られなくてごめんね。今はお父さんの褥瘡の処置があるから』……それだけだったよ。写真の枚も撮らなかった」
「それは……あのはお父さんの命が……」
「就職が決まったもそうだった。『医療器の会社だったら、お父さんのリハビリ器具、くに入らないの?』って。私がどんな仕事をするのか、どんな会社なのか、度も聞かなかった」
遥の声が、かすかに震え始めた。
「の、私、付きってたと別れて、夜に泣きながらこのに帰ってきたことがあったでしょ? 覚えてる? お母さん、台所で私の背をさすりながら、なんて言ったとう?」
私は、息を呑んだ。 いせない。 あの夜、健介の夜頻尿がひどくて、私は眠薬をんでフラフラになりながら起きていたはずだ。
「『遥は若くて健康なんだから、いくらでもやり直せるわよ。
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お父さんを見てごらん、じゃトイレにもけないのよ』って……そう言ったんだよ、お母さん」
「遥……」
「私ね、あの、底ったの。このには、病とお世話係しかいないんだって。健康で、自分できていけるは、この族のメンバーですらないんだって」
遥はちがり、バッグを肩にかけ直した。
「お父さんがお母さんから逃げた理由、私には分かる気がする。お母さんは正しくて、献で、完璧な被害者だよ。でもね、お母さんのその『正しさ』と『犠牲』は、周りの空気を全部吸い尽くしちゃうんだよ」
「……私が、あなたを苦しめてたって言うの?」
「苦しんでたよ。ずっと」 遥は背を向けた。
「お父さんだけが族じゃない。でも、お母さんはお父さんの介護にで、私を捨ててたのと緒だった。……だから、お父さんを責める権利なんて、私にはないよ。で勝に決着をつけて」
玄関のドアが閉まる音がした。 音は、あっというに階段をりて消えていった。
リビングに取り残された私は、にへたり込んだ。 夫に裏切られただけではなかった。 私は、自分が「族のために犠牲になっている」と信じ込むことで、娘の孤独を、娘の青を、完全に踏み躙っていたのだ。
翌週、私はハローワークの自受付に、再発してもらった雇用保険被保険者証の番号を打ち込んでいた。
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部に閉じこもっていても、賃と費は容赦なく引き落とされる。 夫からの活費の振り込みは、今のを最に途絶えていた。 義母の言う通り、を張っていても、現実のが尽きればきていけない。
「林美さん、3番窓へどうぞ」
無質なアナウンスに呼ばれ、私はパイプ子に腰をろした。 担当の相談員は、代半ばの、疲れた目をした女性だった。
「ええと……職は医療器メーカーの営業主任ですね。退職理由が、ご族の介護……」 相談員は私の履歴にざっと目を通し、さくため息をついた。
「ブランクが、丸ですか」
「はい。でも、それ以は、同じ会社で営業として勤務していました。病院や介護施設へのルート営業、器のデモンストレーション、契約の作成まで、通りの実務経験はあります」
必で、の自分の肩きにしがみつこうとした。 私はただの主婦じゃない。 かつては部を何も持ち、売りげ目標を達成して表彰されたこともあるビジネスパーソンだったのだと。
相談員は、困ったように眉をげた。
「林さん、お気持ちは分かりますが……医療器の業界は、ここ、で受発注システムや子カルテの連携が完全にクラウド化されています。あなたの職歴にあるシステム、今はほとんどの現で使われていませんよ」
たい現実が、容赦なく突きつけられる。
「それに、歳というご齢での再就職となると、企業側が求めるのは『即戦力』か、あるいは『現で使いやすい若』です。