"歩けるようになった夫が、最初に捨てたのは私だった" 第7話
私はスマホを取りし、震える指で夫の番号を押した。 コール音が回鳴って、カチリと通話が繋がった。
『……何だ』
の音が、受話器の向こうから聞こえる。 もう、しい部の最寄り駅に着いたのだろうか。
「ノート、見たわ」
私の声は、くかすれていた。
「ゴミ捨てに置いてあった。あなたが捨てたの?」
瞬の沈黙。 それから、夫は吐き捨てるように言った。
『ああ。俺の私物だ。どう処分しようが俺の勝だろ』
「勝……? これ、私が、毎毎あなたの体調を見守って、秒秒記録してきたものなのよ!? あなたが初めて秒てた、どれだけ嬉しかったか……それを、ゴミと緒に捨てるなんて、あんまりじゃない!」
『だから!』 夫の荒い息遣いが、元で弾けた。
『それが鬱陶しいんだよ!』
駅のアナウンスが、夫の苛ちを際たせるように響く。
『俺がどれだけ惨めに漏らしたか、どれだけけなく泣き叫んだか、そんなものを冊冊丁寧に保して、おは何が楽しいんだ? から読み返して、「私はこんなに尽くした」って自分を慰めるためのトロフィーか何かか!?』
「そんなんじゃない! 先に見せるために、あなたの回復のために……!」
『もう治ったんだよ!』 夫が鳴った。周りの乗客が振り返ったのか、すぐに声を潜めたが、その毒気はしもまっていなかった。
『治った俺にとって、そんなものはただの汚点だ。
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俺が犬みたいにいつくばってた々の証拠なんて、にして消してしまいたいんだよ。……おがそれを取っておきたいなら勝にしろ。ただし、俺のに度と持ってくるな』
ツーツー、と無質な切断音が響いた。
ゴミ集積所の横、アスファルトのに膝をついたまま、私はけなくなった。 抱きしめた冊のノートから、ほのかに湿布の匂いがした。
私が守り抜いてきたの結晶は、夫にとっては「自分が犬だった頃の首輪」でしかなかった。 どれだけ泣いても、涙はなかった。 ただ、胃の奥が氷で満たされたように、たくく沈んでいくだけだった。
曜の午、都内のデザイン事務所で働く娘の遥が、鍵を使って部に入ってきた。
「ただいまー……うわ、何これ」
玄関にち尽くした遥が、リビングを見回して眉をひそめた。
部のは、曜の朝のままだった。 夫がてってから、掃除を度もかけていない。カーテンもけていなかった。 ダイニングテーブルのには、あの冊のノートと、区役所から届いた介護保険の資格喪失届が放置されていた。
「遥……来てくれたのね」
ソファから起きがった私を見て、遥はギョッとしたように目を丸くした。
「お母さん、その顔……ちゃんと寝てないでしょ。ご飯べてる?」
「べられないのよ……お父さん、本当にアパート借りててっちゃったの。
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私のこと、邪魔者みたいに追いして……」
私は堰を切ったように話し始めた。 夫がヶから病院に「妻の関与除」を申請していたこと。 の介護記録をゴミのに捨てていったこと。 義母から「放したらが無駄骨になる」と罵られたこと。
「信じられる? 私、歳で主任のポストを捨ててまで、お父さんのために全部捧げたのよ? 自分の健康診断すら回しにして、お父さんの脚がくことだけを願って……なのに、治った途端にこの仕打ちよ。あんまりじゃない、遥。お母さん、どうしたらいいのか……」
すがるように、遥の細い首を掴もうとした。 方が欲しかった。 「お父さんは最だね」「お母さんは悪くないよ」という、たった言の肯定が欲しかった。
けれど、遥は私のを、スッと静かに引き抜いた。
「……お母さん」
その声には、同もりもなかった。 ただ、底れない疲労だけが漂っていた。
「そういう話、もう聞きたくない」
「え……?」
遥はコートも脱がず、テーブルの子を引いて座った。 私と目をわせようとせず、テーブルの目をじっと見つめている。
「お母さんが変だったのは、分かってるよ。お父さんの介護、本当にで抱え込んで、倒れそうになりながらやってたのも見てた」
「だったら……」
「でもね、この、お母さんの目のに、私の姿なんて度でも映ってた?」
く、静かな問いだった。 だが、その言が、私の胸にく突き刺さった。