"「子どもがいないから」と義妹の長男を譲ろうとする義家族" 第16話
私はりすら湧かなかった。 ただ、このたちの底れない浅ましさに、いれみをじていた。
そのだった。
ガタン、と鈍い音が響いた。
子から、美穂がちがっていた。 点滴の管が揺れ、点滴スタンドが音をてて倒れそうになる。 青ざめた顔に、脂汗がびっしりと浮いていた。 帝王切の傷をで押さえながら、美穂は全をガタガタと震わせていた。
「美穂、座ってろよ、傷がくだろ――」 翔太が面倒くさそうにを伸ばした。
その瞬。
パチンッッ!!
乾いた、凄まじい破裂音が部を切り裂いた。
翔太の首が真横にねんだ。 鏡がれ、リノリウムのに落ちてカシャンと音をてる。
翔太は頬を押さえ、信じられないものを見る目で美穂を見つめた。 義母も、直も、息を呑んで固まった。
美穂のが、空で激しく震えていた。 その瞳から、粒の涙が滝のように溢れしていた。
「……あんた、何して――」
「黙れッッ!!」
美穂の喉から絞りされたのは、獣のような叫びだった。
「悠真を……私の息子を、何だとってるのよ!!」
声が裏返り、病の壁を震わせる。
「世? 昇? 誰のおかげで活できてる!? ふざけないでよ! あんたが夜ぐっすり寝たいからって、悠真を厄介払いしたかっただけでしょ! 自分の子供守れない男が、何の世よ!!」
「み、美穂……お、産で緒が狂って――」
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「狂わせたのはあんたたちよ!!」
美穂は翔太の胸ぐらを、点滴の針が刺さったで力任せに掴みげた。
「お義姉さんが子供産めなかったこと……何度も何度も叩いて、『タダで使えるシッターができて良かった』って笑いってたの、私、ってるんだからね!!」
直の肩が、ビクッとねた。 義母の顔が、気に染まっていく。
「悠真があんな絵を描くまで……あの子が『いらない子』って泣くまで、私、怖くて何も言えなかった……! あんたに嫌われるのが怖くて、お母さんにられるのが怖くて……! でもね、もう終わりよ!」
美穂は翔太を突きばした。 よろめいた翔太が、背の壁に背を打する。
「悠真は、私が育てる。とも、私が育てるわ」
美穂は佐伯相談員に向き直り、震えるでくをげた。
「佐伯さん……産ケア事業を、申請します。退院、そのまま内の産ケアセンターに悠真と赤ちゃんとで入所させてください。費用は、私の独代の貯からします」
「美穂、待てよ! そんなところに入ったら、所に何て言われるか――」 翔太が慌てて割って入ろうとする。
美穂は、氷のような目で夫を瞥した。
「世体を気にするなら、今すぐ育休の取り消しを撤回しなさい。会社の総務にって、育児休業を申請して、産ケアをたあとの事と育児を半分引き受けなさい」
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「な……そんなの、今さら会社に言えるわけ――」
「言えないなら、婚届にサインして」
文字の言葉が、部に突き刺さった。
「悠真を捨てるような父親なら、最初からいらない。養育費だけきっちり請求して、私で育てるわ。選んで」
翔太はをパクパクとかし、に落ちた鏡を見つめたまま、言も返せなかった。 威勢のいい言葉も、エリートのプライドも、すべて剥がれ落ち、ただの怯えた男がち尽くしていた。
美穂は最に、義母の幸子を振り返った。
「お母さん」
義母がビクッとを竦める。
「度と、私の庭にをさないで。悠真に『おばちゃんの子になれ』なんて嘘をついたこと、許さないから。これ以お義姉さんを傷つけるなら、孫には度と会わせない」
「み、美穂……あんた、実の母親に向かって……」
義母は震えるでずさりし、そのまま力なくパイプ子に崩れ落ちた。 自だった娘にも、自だったエリートの義息子にも見限られ、ただの老醜を晒していた。
美穂はゆっくりと私の方を向き、く、くをげた。
「お義姉さん……本当に、ごめんなさいでした。私のさのせいで、お義姉さんのも、悠真のも、傷つけてしまって……」
私はちがり、美穂の痩せた肩にそっとを置いた。
「もういいのよ、美穂ちゃん。……よく言ったわね」
美穂の目から、再び涙が溢れた。
けれど、それは先ほどまでの怯えの涙ではなかった。 の母親として、自分のでちがるための、覚悟の涙だった。