"清掃員の母を消した息子の結婚式" 第9話
ギシギシと軋むコンクリートの触。 壁の塗装は剥げ落ち、踊りには誰かの錆びた自転が放置されている。 目黒の級マンションとは程い、々の活の匂いが染み付いた、ただの吹き溜まりのような所だ。
「狭いところですが、どうぞ」
玄関の鉄扉をけ、を招き入れた。 畳と畳半のきり。 畳は擦り切れ、所々に具を引きずった跡がある。
だが、部の壁面には、私がで総病院から表彰された「優秀清掃員表彰状」や「染症対策貢献謝状」が、額縁に入れられて然と並んでいた。 その隣の鴨居には、昨きれいに洗濯してアイロンをかけた、青い作業着が着、きちんとハンガーに掛けられている。
雅子さんは靴を揃えてがり框に腰をろすと、その壁の表彰状と、作業着をじっと見つめた。
私は台所で、欠けた急須からたい麦茶を注ぎ、にした。 座の割烹のような級な茶器ではない。百円均の、飾り気のないガラスのコップだ。
「お構いもできず、申し訳ありません」
私は座布団のに正座し、両を畳について、々とをげた。
「林様。美優さん。……息子の拓也が、とんでもない嘘をつき、おと林を欺いていたこと、母親としてからお詫び申しげます。本当に、申し訳ありませんでした」
額が畳につくほど、くげた。
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、あの子のためにをげ続けてきたけれど、これほど惨めで、これほどけないのげ方はなかった。
「……をげてください、さん」 雅子さんの、く落ち着いた声がってきた。
顔をげると、雅子さんはされた麦茶に静かにをつけていた。 その仕には、品格があった。 けれど、昨サロンで見せたようなたさはなく、その目はどこまでも澄んでいた。
「さん。単刀直入にお伺いします。拓也さんが言っていた『父の遺産』や『産』の話は、すべて虚構ですね?」
「はい。夫が遺したのは、数万の貯と借の理費用だけでした。私はこの、域の総病院で、千百円の清掃パートとして働いてきました。あの子の学の学費も、活費も、すべて私の夜勤の当と、を啜るような清掃の仕事で賄ったものです」
私は飾らず、隠さず、淡々と事実を並べた。
「あの子のアパートの賃の更料も、見栄のために買ったブランド物のスーツ代も、私が頼まれるたびにシフトを増やして面してきました。……あの子をここまで歪ませたのは、母親である私のさです。あの子に惨めないをさせたくないと、私がすべてを肩代わりしてきた結果です」
私の言葉に、美優さんが元を押さえて息を呑んだ。
雅子さんは、ゆっくりと自分の両をテーブルのに置いた。
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そのを見て、私はハッとした。
目には入れのき届いた綺麗なに見えた。 だが、くで見ると、指の関節は太く曲がり、爪のえ際やの甲には、無数のさな傷の痕や、いパーマ液に晒されてきた皮膚のひび割れが刻まれていた。
それは、私と同じ――現で臭く働き続けてきたのだった。
「さん」 雅子さんが静かに語り始めた。
「私もね、代の頃は、さな美容のシャンプー台で、たいとお湯にを浸けていました。荒れが酷くて、夜になると指から血が噴きして、包帯を巻いて寝るような毎でしたよ。夫がくなったも、そのつで美優を育てて、を構えたんです」
雅子さんの線が、壁に掛けられた私の青い作業着に向けられた。
「私はね、現で汗を流して、自分のでを稼ぐを、何よりも誇りにっています。あなたのそのを見て、壁の表彰状を見て、あなたがどれほど誠実に、どれほど必にきてこられたか、痛いほど分かります」
雅子さんはコップを置き、線を鋭く尖らせた。
「私が許せないのは、ただつ。自分がき延びるために親が流した血と汗を、汚らわしいものとして踏みにじり、見栄の肥やしにしたあの男の浅ましさです」
その言葉は、私の胸の奥に、い杭のように突き刺さった。
「美優。……どうするの」 雅子さんが娘に問いかけた。
美優さんは、涙で濡れた瞳をげ、私を真っ直ぐに見つめた。