"清掃員の母を消した息子の結婚式" 第1話
座の、違いなほど静まり返った割烹の個だった。
運ばれてきた焼き物の皿をにして、息子が箸を置いた。 カチリ、とさな乾いた音がした。
「母さん。式の当、自分の仕事のこと、周りに言わないでくれないか」
……は? の奥で、のわからない単語が反響した。
息子は私の顔を見ようとしない。 綺麗に糊のきいたワイシャツの袖をいじりながら、まるでの気がだとでも告げるような、く平板な声だった。
「どういう?」 私の声が、けないほどかすれていた。
「言葉通りのだよ。美優のは、父親が元で、母親も元でくサロンをやってる。親族もみんな、それなりの肩があるたちばかりなんだ」
「……」
「そこにさ、母さんが『総病院の清掃員です』なんて言ったら、どうわれるか。世体ってものがあるだろ。わざわざ自分から恥を晒す必はない」
喉の奥が、砂をみ込んだようにカラカラに乾いていく。
私は、膝ので握りしめていた自分の両に目を落とした。
指先には、淡い桜のジェルネイル。 、駅のさな商業ビルに入っているいサロンで、千円してやってもらったものだ。
息子の結婚式だから。 郎の母親として、相のご族にしでも綺麗に見えるように。 、次亜塩素酸ナトリウムの消毒液とゴム袋で荒れ果てて、節くれだった指先を、しでも隠せるように。
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「恥、なの?」 絞りすように聞いた。
「私が、病院のを拭いて、汚物を片付けて、あんたを学までしたことが……そんなに恥ずかしいこと?」
息子の眉に、いシワが寄った。 あからさまに苛った顔で、舌打ち混じりに息を吐きす。
「誰もそんなこと言ってないだろ! 被害妄をやめてくれよ! 俺はただ、結婚式を無事に終わらせたいだけなんだよ。なんで母さんは、そうやっていつも話をげさにするんだ」
ので、何かがプツリと音をてて切れた気がした。
この子は、私がどんないでその現にち続けてきたか、っているはずだった。
夫が突然の全で逝ったのは、この子が学、歳のだ。 遺されたのは、わずかな貯と、古びた都営宅の部だけ。 卒で職歴のない私が、すぐに雇ってもらえたのが、域の総病院の夜・朝清掃パートだった。
のたい。 吐瀉物や血液の処理。 どれだけ腰が痛くても、指の皮がめくれて血が滲んでも、私は度も仕事を休まなかった。
「拓也、塾にきたいんだろ? 丈夫、お母さんがなんとかするから」 「私の学、受けたいの? 気にしないで受けなさい」
そうやって、夜勤のシフトを増やし、曜も臨の清掃に入り、学費の振込用を握りしめてへった。 あのは、息子の目には「隠すべき汚点」
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にしか映っていなかったのだ。
「……もういいわ」
私は箸を置いた。 もをつけられなかった料理が、界の隅でたくっていた。
「母さん?」
「ごちそうさま。お腹、いっぱいになったから」
私はバッグを掴み、ちがった。 背から「おい、母さん! 待てよ!」と呼ぶ息子の声が聞こえたけれど、度も振り返らなかった。
夜の座のたいが、照った頬を撫でる。 鉄の窓に映る自分の顔は、ひどく老け込んで見えた。
に帰り、狭い玄関の鍵を閉める。 畳のには、数に仕て直しから戻ってきたばかりの黒留袖が、鴨居に掛けられていた。 母が遺してくれた古い着物を、息子のれ台のために、なけなしの貯を崩して丸洗いにしたのだ。
糸で刺繍された鶴の羽が、灯のかりに照らされて静かにっていた。
私は着物にづき、そっとを伸ばした。 だが、触れる直で指が止まる。 爪の先の桜が、ひどく滑稽に見えて、そのままを引っ込めた。
黒留袖をハンガーからし、丁寧に畳んで、防虫剤の匂いがする箪笥の奥へと押し戻した。
翌朝、。 目覚ましが鳴るに目が覚めた。
全が鉛のようにい。 けれど、仕事は待ってくれない。 私はいつものように化粧をし、あせたトートバッグに筒とタオルを詰め、病院へ向かった。
ロッカールームで、の作業用エプロンに袖を通す。