"昨日の私を着る女" 第2話
「佐伯さん、昨のデニムすごく素敵でした。私、ああいうテイストも佐伯さんが着こなせるんだって、ちょっとしちゃって」
悪のかけらもない、純粋な賛美のトーンだった。
「……鈴さん、それ、どこで買ったの?」
私は子の肘掛けを握りしめ、できるだけ平静を装って尋ねた。
鈴さんはし目を丸くし、それからふわりと微笑んだ。
「これですか? ずっとに沢の古着さんで買ったんです。ずっと着てなかったんですけど、昨佐伯さんを見てたら、急に着たくなっちゃって」
嘘だ。
昨まで、彼女のロッカーにそんなジャケットが掛けられていたことは度もなかった。
晩で古着を探し回ったのか、それとも最初から私の持ち物を把握して似たものを元に揃えていたのか。
どちらを像しても、背筋の奥が粟った。
っていく鈴さんの背を見つめていた私の線が、彼女の肩から提げられた成りのトートバッグに留まった。
バッグの持ちの付け根に、さな革製のキーホルダーが揺れていた。
茶い革を切り抜いた、丸まった猫のモチーフ。
私が先週の曜、自宅くの雑貨で買い、曜に自分の鍵につけたばかりのものと、まったく同じものだった。
あのキーホルダーを、私は社内でバッグからしたことなど度もなかったはずだ。
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会社の更で、ロッカーの扉を閉めるほんの瞬。
あるいは、デスクの引きしの隙。
彼女は、どこでそれを見ていたのか。
*
その週末、部署の途歓迎会を兼ねたみ会が、駅のチェーン居酒でかれた。
座敷の席で、鈴さんは田主任の斜め向かい、私はそのつ隣に座っていた。
「鈴さんは本当に気が利くし、装も清潔があって好が持てるよな」
ビールをジョッキ半分ほど空けた田主任が、嫌で言った。
「総務は会社の顔みたいなもんだからさ。そういう落ち着いた女性らしいセンスは事だよ」
「ありがとうございます。私、自分に自信がなくて……でも、職の先輩たちをお本にさせてもらってるんです」
鈴さんは両で烏龍茶のグラスを持ち、伏し目がちに微笑んだ。
そのの鈴さんは、淡いラベンダーのリブニットに、細かなプローツが入ったチャコールグレーのスカートをわせていた。
私が、先週の曜に着ていた組みわせだった。
アルコールのせいか、それとも蓄積していた疲労のせいか、私のから抑えきれない言葉が滑りた。
「それ、私が先週着ていたのとまったく同じ組みわせですよね」
テーブルののざわめきが、瞬で途切れた。
ジョッキを置くカチャリという音だけが響いた。
向かいにいたさんが、驚いたように私を見た。
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鈴さんは目を見き、それから困惑したように線を泳がせ、やがていたたまれないように肩をすぼめた。
「……あ、すみません。私、そんなつもりじゃ……」
消え入りそうな声だった。
「佐伯さんの着こなしがすごく綺麗だったので、無識に似たようなを選んでしまったのかもしれません……にさせてしまったなら、本当にごめんなさい」
彼女の瞳に、みるみるうちにい涙の膜が張っていくのが見えた。
両膝ので揃えられた指先が、さく震えている。
「おいおい、佐伯」
田主任が眉をひそめ、をわにした苦笑いを浮かべた。
「輩をそんなに問い詰めるもんじゃないよ。のセンスが似てるなんて、よくある話じゃないか。鈴さんがおを参考にしてるなら、むしろ先輩としてぶところだろ」
「参考とか、そういうレベルじゃありません。鈴さんは私が着た翌に、いつも必ず——」
「佐伯さん、もうそれくらいにしよう」
隣のさんが、テーブルので私の膝をそっと叩いた。
周囲の線が痛かった。
『入社員のに難癖をつける、神経質での狭いお局』
言葉にされなくても、同僚たちの瞳に浮かんだ無言のラベリングが肌に突き刺さる。
誰も、の「順番」など覚えていないのだ。
が昨何を着ていたかなんて、誰も気にしていない。
記憶に残っているのは「今、目のでにを縮めている鈴さん」
と、「それをたく糾弾している私」