"「ここは新妻の家」と笑う義母へ突きつけた、青い契約書" 第8話
私はダイニングテーブルのに広げられた類を指先で叩いた。
「あなたたちが今踏み躙っているのは、の借りている部。あなたたちがゴミ箱同然に扱ったのは、この部の正当な契約者の私物。……法侵入と器物損壊で、今すぐ警察を呼びましょうか?」
美穂が、信じられないものを見る目で部を見渡し、それから自分の着ている私のカーディガンを見つめた。 その瞳に、底れない恐怖と絶望のが広がり始めていた。
リビングに落ちた沈黙は、が痛くなるほどかった。
テーブルのに投げされた、青い表の『普通建物賃貸借契約』。 そこに印字された【賃借:佐藤由美】の文字を、美穂は穴がくほど見つめていた。
「……うそ」
かすれた声が、美穂の乾いた唇から零れ落ちた。 両が刻みに震え、着ていた私のカーディガンの袖をきつく握りしめている。
「うそ……ですよね? 浩司君、ここは自分が独代からコツコツ貯めて買ったマンションだって……。もうすぐ完済するから、結婚したら俺たちの名義にき換えるって……」
「買ったわけがないでしょう」 私はえ切った声で、事実だけを淡々と告げた。 「ここは港区の民賃貸マンションよ。築数も浅いし、毎の賃は万円。敷も礼も、仲介数料も、私が独代に貯めた預から全額振り込んだの。
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浩司はただ、私の同居として名を連ねていただけ」
美穂の線が、テーブルのの契約から、部の隅にち尽くす義母へと向けられた。 すがるような、縋り付くような瞳。
「お、お義母さん……! 浩司君の言ってたこと、本当なんですよね? この、浩司君が買ったおなんですよね……!?」
義母は顔を真っ赤にし、線を泳がせながら、喚くように叫んだ。 「な、何を言ってるのよ美穂さん! こんな女の言うこと、真に受けちゃダメよ! 浩司が嘘なんてつくはずないじゃない! この女が勝に類を偽造したのよ! そうに決まってるわ!」
「偽造?」 姉がを鳴らし、歩にた。 「公認産会社の社印と宅建物取引士の捺印、京都の宅建業免許番号まで入った原本を偽造? 随分とおめでたいね、お義母さん。必なら今すぐ管理会社と仲介業者をここに呼びましょうか? 誰が、度も滞納せずに賃を座引き落としで納め続けてきたか、直接教えてもらいましょう」
姉の容赦のない言に、義母の唇がガタガタと震え始めた。 反論の言葉が見つからないのだ。
「そんな……」 美穂のから力が抜けたのか、そのにへたり込みそうになり、慌てて子の背もたれに掴まった。 その拍子に、テーブルののマグカップが倒れ、めた麦茶が類の端を濡らした。
「じゃあ……浩司君の言ってた役員昇は……? 佐藤が方の主で、将来莫な遺産が入るっていうのは……? 全部……全部嘘だったの……?」
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「主?」 私は乾いた笑いを漏らした。 「義父の実が持っていた田んぼなんて、に全部切り売りして、今はあのボロボロの平が残っているだけよ。浩司の会社だって、従業員らずの請け製造業。役員昇なんて話、社内で度もたことすらないわ」
美穂の顔から、完全に表が抜け落ちた。 まるで、精巧に作られた蝋形のようにい。
その女は、震えるでスマートフォンを握りしめると、ハワイにいるはずの夫へ狂ったように話をかけ始めた。 スピーカーから、延びしたコール音が鳴り響く。 数秒、寝起きの夫の嫌な声が響いた。
『……もしもし、美穂? どうしたんだよ、こんなに。さっき母さんから――』
「浩司君!!」 美穂が絶叫した。 静かなマンションのリビングに、切り声が突き刺さる。
「あんた、私に何て言った!? このマンション、自分が括で買ったマイホームだって言ったよね!? 役員になって収千百万超えるから、養育費も活も全部自由させないって言ったよね!?」
話の向こうが瞬で静まり返った。 気まずい沈黙が、スピーカー越しに伝わってくる。
『……な、何言ってんだよ美穂。今ハワイは夜なんだぞ、急にきな声して』
「誤魔化さないで!!」 美穂の瞳に涙が溢れし、化粧を崩しながら頬を伝った。 「今、妻がここにいるのよ! 賃貸契約も見せられた! 契約者はこの女で、あんたは円もすらしてないただの居候だって! お義母さんも何も言い返せてない! どういうことなのよ説してよ!!」