"「妹の祝いだ50万出せ」と言った夫の裏の顔" 第17話
夫は由美に対し、貞為および婚姻関係破綻の責任を認め、慰謝料として250万円の支払義務を負うものとする」
夫の元が、刻みにカタカタと震え始めた。 の奈緒から回収する200万円に加え、夫自が背負う250万円の負債。 そして、妹夫婦への40万円。
「第〇条。債務者・佐藤夫は、本契約による銭債務の履を怠ったときは、直ちに制執にする旨を陳述した」
制執認諾条項。 裁判を起こすまでもなく、支払いがでも滞れば、夫の与座や将来の退職が、国権力によって即座に差し押さえられるという、逃れようのない鉄の枷。
「……以の内容に、相違ございませんか」
公証の問いに、私はまっすぐにを見据えて答えた。
「相違ありません」
翔太さんと美も、静かに頷いた。
「ありません」
公証の線が、最に夫へと向けられた。
「佐藤夫さん。内容に異議はありますか。署名押印をしていただけますか」
夫は、まるで刑台の階段を見げるような顔で、机のの類を見つめていた。 震えるで万を取りげる。 インクがに触れる直、夫はすがるような目で私を盗み見た。
「……由美。本当に……本当にこれで終わりなのか……? 10も……緒に暮らしてきたのに……」
掠れた、湿った声。 最まで、男は「」という名のにすがりつこうとしていた。
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私はその目を、ただ静かに、完全にの目でたく見返した。
「ええ。終わりです。度と私のに現れないでください」
その言で、夫の最の糸がプツリと切れた。 男は唇を噛み締め、涙をボロボロと類の端にこぼしながら、震える跡で自分の名をき殴った。 実印が、朱肉を吸って々しく押される。
カチリ、と朱肉の蓋が閉まる音がした。
その瞬、10の苦しい鎖が、私の首から完全にれ落ちたような覚がした。
続きを終え、役のエントランスをると、はすっかりがっていた。 の切れから、夕暮れの柔らかいが濡れたアスファルトを黄に染めげている。
待に残されていた義母は、いつのにか姿を消していた。 から聞いた話では、夫の遷と横領の噂は、すでに義実の隣や親戚にき渡っていたという。 「優秀な男」を自し、所を見していた義母の元には、今や同を装った好奇の目と、しか届かない。 町内会の集まりにも顔をせなくなり、自宅のカーテンを閉め切って暮らしているそうだ。
建物ので、美と翔太さんが私に向き直った。
「由美さん」
美が私の旧姓を呼んだ。 そこには、もう甘えた義妹のは微もなかった。
「私たち、今回のことでたくさん勉しました。自分たちのでって、誰の顔も窺わずに、でやり直します」
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「ええ。なら丈夫よ」
私はのを、そっと包み込むように握った。 翔太さんが力く頷き、美を伴って駅の方へと歩きしていった。 その背は、以よりもずっと寄り添いい、逞しく見えた。
それから、ヶが過ぎた。
季節は巡り、初の爽やかなが、の青葉を揺らしている。
私は、会社のオフィスから徒歩分の所に見つけた、さな1LDKのアパートでしい活を始めていた。 無垢材のフローリングに、いリネンのカーテン。 贅沢なものなど何つないけれど、部のにはいつもよいが通り抜け、誰の顔を窺う必もない静寂があった。
戸籍謄本を取り寄せた、夫の名の横に押された『除籍』の文字を見た瞬の、あの胸のすくような放を、私は忘れないだろう。
夫は予定通り関の資材センターへばされ、慣れない肉体労働と管理業務に追われながら、減額された料から淡々と慰謝料と妹への返済を振り込み続けている。 度だけ、弁護士経由で「体調を崩した、返済を待ってくれ」という泣き言が届いたが、先が通の内容証で「与差し押さえの続きに入ります」と返信したところ、青くなって即入してきたそうだ。 もう、あの男の嘘に振り回されるは、この世のどこにもいなかった。
休の朝。 私はさなボストンバッグに、泊の着替えと文庫本を冊詰め込んでいた。