"「妹の祝いだ50万出せ」と言った夫の裏の顔" 第14話
夫の荒い息が、スピーカーを震わせる。
「今……会社から帰ったら、弁護士から内容証が届いてて……奈緒のところにも同じのが届いたらしいんだ! あいつ、急に狂ったみたいに俺を罵倒して、『も払えないくせに私を巻き込むな』って……連絡が切つかなくなったんだよ!」
自業自得。 の切れ目が縁の切れ目。 そのあまりに浅なの正体を、夫はようやくったのだ。
「それだけじゃないんだ……! 翔太のやつ、本当に親父さんに話しやがった! 、役員に呼びされてるんだよ……! 横領と倫の件で、査問委員会がかれるって……!」
ドアので、ズルズルと何かが崩れ落ちる音がした。 夫がドアに背をもたれかけ、へたり込んでいるらしかった。
クシャクシャに握りつぶされたの擦れる音が、マイク越しに届く。
「由美……頼むよ……に入れてくれ……! おが弁護士を取りげて、『全部夫婦の勘違いでした』って会社に説してくれれば、俺は助かるんだよ……! なあ、妻だろう!? 緒に暮らしてきた族じゃないか! 俺のを終わらせる気かよぉッ!」
赤黒く充血した目で、ドアを引っ掻く夫の姿が目に浮かぶようだった。
私はドアの覗き穴から、を静かに見ろした。 そこにいたのは、威厳ある課でも、尊な男でもなかった。 自分の犯した罪のさに耐えかね、に救いを求めて喚き散らす、ただのれなピエロだった。
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私は通話ボタンを押しし、スピーカーの音声を切った。
そして、警察への通報ボタンに指を添えながら、暗い玄関で静かに息を吸い込んだ。
嵐の夜は、まだ終わらない。 だが、この男が迎えるべき本当の結末の朝は、もうすぐそこまで来ていた。
夜のえ切った廊に、けたたましい声が響き続けていた。
「けろよ! 由美! 頼むから話を聞いてくれ!」
ガン、ガンとい鉄扉が震えるたび、に置いたスリッパの底から微かな振が裏に伝わってくる。 ドアスコープから覗く世界は、酷く歪んでいた。 魚レンズの向こうで、額に脂汗を浮かべ、乱れたネクタイを胸元で引きちぎりそうになっている男。 かつて私が「誠実で頼もしい」だと信じ込んでいた夫の、これが無様な成れの果てだった。
私はためらわずに、スマートフォンの通話画面で『110』を押した。
「事件ですか、事故ですか」
械で、極めて静な通信指令係の声。
「自宅の玄関で、別居の夫がドアを叩き壊す勢いで暴れています。以から銭を求されており、の危険をじています。所は――」
呼吸を乱さず、部番号まで瞭に告げる。 受話器の向こうでパトカーの配が完したと告げられるまで、わずか分。 通話を切ったも、夫の切り声は止まらなかった。
「奈緒に捨てられたんだよ! 会社にもバレた! おが全部元に戻せ! 妻だろうが!」
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夜の集宅の廊に、その濁った声が筒抜けになって反響している。 隣の部のドアスコープが微かにり、誰かが警戒して様子を伺っている気配配がした。 あのがあれほどまでに固執し、守りたがっていた「世体」。 それが今、自分自の叫び声によって、隣民の淡な線ので々に砕け散っていく。
赤灯のが、曇りガラスの向こうで気に回転し始めたのは、通報から分のことだった。
い靴音が階段を駆けがってくる。 「警察です。何をしてるんですか、あなた」 く威圧な警察官の声が響いた瞬、夫の喚き声がピタリと止まった。
「ち、違います……! 夫婦喧嘩です! 妻が鍵をけないから、ちょっと話そうとしただけで――」
「こんな夜にドアを蹴ばしていい理由にはなりません。お酒も入ってますね。分証を見せてください」
「俺は部企業の課ですよ!? 犯罪者扱いするな!」
「分証をしてくださいと言ってるんです」
ドアの向こうで、夫が警察官に挟まれ、ずるずると階段の方へ誘導されていく音がした。 私はチェーンをかけたままドアを数センチだけ引き、駆けつけた若い警察官に分証を提示した。
「被害届については、すでに弁護士を通じて面で準備しております。今夜はこれ以の接触がないよう、厳な警告をお願いします」