みかん小説
本棚

"「中絶して逃げた」元妻が連れていた、七歳の双子" 第13話

……こんな穢らわしいに、分たりともいられるか!」

叔父はそう吐き捨てると、度も母を振り返ることなく、仏をてった。

「兄さん! 待って、お願いだから!」 母の絶叫が響く、の親戚たちも、逃げるようにちがった。

「信じられない……」 「健くん、本当に今まで変だったわね……」 「おばさん、もう連絡してこないでください」

誰として母にを貸す者はいなかった。 並べられた仕し弁当には、箸本つけられていない。 玄関のドアが何度も閉し、がりる音がざかっていく。

わずか分らずで、あれほど賑やかだった実は、墓のように静まり返った。

畳のに崩れ落ちた母の着物は無様に乱れ、帯が解けかけていた。 にこぼれたお茶が、着物の裾を黒く濡らしている。

母は震えるで、散らばったの束をかき集めようとしていた。 だが、その指先にはもう、何の力も入っていなかった。

「……健」 母が、にいつくばったまま、私を見げた。 涙と汗でドロドロに溶けたファンデーション。 見かれた瞳には、狂気ではなく、純粋な恐怖だけが張り付いていた。

「あんた、親を……母親をこんな目に遭わせて、ただで済むとってるの? 親孝者! バチが当たるわよ!」

々しい、ただの負け惜しみだった。 かつて私を支配していたあの絶対な「母親の威厳」

広告

は、どこにも残っていなかった。 目のにいるのは、自分の見栄と嘘に押し潰された、れな歳の老にすぎなかった。

私は、ちがった。 そして、鞄から最の枚の類を取りし、母の目のの畳に置いた。

『専任媒介契約』 そして、 『産売却に関する委任状』。

母の目が、その文字を捉えた瞬、呼吸が止まった。

「……なに、これ」

「このの売却続きを、今週から始める」

「は……? 売却……? 何を言ってるのよ、ここは私のよ! お父さんが遺してくれた、私のなのよ!」

「登記簿謄本を見たか?」 私は平然と言い放った。

「父さんがくなった、相続続きでこのと建物の名義は、全て俺本にしてある。母さんは居権を主張するかもしれないが、俺はもう固定資産税も、宅ローンの残債も、このの維持費を円も払わない」

「健ッ!!」 母が私のスラックスの裾を掴んできた。 骨と皮ばかりのが、必に布を握りしめる。

「私を追いす気?! どこへけっていうのよ! 貯だって、あんたの活費をやりくりしてただけで、私の元にはほとんど残ってないのよ!」

「っているよ」 私は母のを、指を本ずつすようにして、たく払い落とした。

「浩司に調べてもらった。母さん、私の与から渡していた活費の半を、親戚への見栄の贈答品と、価な着物に注ぎ込んでいたな。

広告

カードローンが百万あることもっている」

母の息が止まった。

「全部、自分で清算しろ。着物を売るなり、装飾品を処分するなりして、借を返せ。が売れたら、売却益から母さんの当面の賃貸アパート代と、最限の活費は信託座に入れてやる。だが、毎の万円の送は、今で完全に打ち切る」

「そんな……そんな殺な! 私はあんたの母親なのよ! 産んで育ててやった恩を忘れたの?!」

母は畳に額を擦り付け、激しく泣き叫び始めた。 かつて私を操るために何度も見せてきた、あの「泣き落とし」だった。

だが、私のには、さざ波つたなかった。

「域包括支援センターには、先週相談にった」

私の事務な声に、母の泣き声がピタリと止まった。

「介護認定の申請類を置いてきた。今は、政の担当者とケアマネジャーがおの窓になる。必最限の公支援は受けられるように配した。……それが、法な男として、俺が果たす最の扶養義務だ」

「健……頼むから、捨てないで……にしないで……」

「見捨てたんじゃない」 私は母を見ろし、分の決着をつけるように言い放った。

「あんたがに、由美とお腹の子供たちを殺そうとした瞬に、俺たちの親子関係は終わっていたんだ。あんたは母親じゃない。ただの、犯罪者だ」

母は完全に言葉を失った。

これ以の言い訳も、泣き叫びも、りも、何つ私には届かないことを、その濁った瞳が悟っていた。

私は階へがり、あらかじめまとめておいたスーツケースをつだけ引きずりろした。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: