"「中絶して逃げた」元妻が連れていた、七歳の双子" 第5話
真理さんは会釈すらなく、私の正面の席に座った。 バッグからしたハンカチでテーブルを軽く拭い、員が置いたメニュー表には目もくれない。
「アイスティーを。それから、居はしませんので」
注文を取り終えた員がれるのを待たず、真理さんは組んだ指をテーブルのに置いた。 爪が、くなるほどくい込んでいる。
「昨の病院でのこと、妹から聞きました」 く、よく通る声だった。 周囲の客が気づかない程度の音量だが、私には元で鉄パイプを打ち鳴らされたかのように響いた。
「過呼吸で倒れた由美を病して、子供たちを寝かしつけて……晩、私はりでが震えていました。よくも、どの面をげてあののに現れられたものですね」
「真理さん、聞いてください。俺は……本当に、昨まで何もらなかったんです」 喉の奥がカラカラに渇いていた。 私は胸ポケットから、昨晩母の桐箪笥から回収したあのを取りした。 、真理さんが名古の私宛てに送り、母が隠し持っていた、あののコピーだ。
「これを見つけました。母が……俺の母親が、に俺宛てのも、由美からの連絡も、すべて握り潰していたんです。俺は昨まで、由美が絶して、別の男と消えたと信じ込まされていました」
けない声だった。 自分でも吐き気がするほど、見苦しい言い訳だと分かっていた。
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それでも、私は自分が「悪の共犯者」ではないと、このに証したかったのだ。
だが、真理さんの表は、ミリもかなかった。
ややかな線が、テーブルののを瞥しただけだった。 真理さんはふっと、く息を吐きした。 それは、らかな侮蔑の笑いだった。
「……それで?」
「え?」
「『母親に騙されていたれな僕』をアピールして、私に同でもしてほしいんですか?」
言葉の刃が、喉元に突き刺さった。
「真理さん、俺は――」
「佐藤さん。あなた、今いくつになりました?」 真理さんは背筋を伸ばし、私を射抜くように見据えた。
「歳ですよね。でも、歳の派なだったはずです。母親がを隠した? 母親が嘘をついた? だから何ですか? あなたは、自分の妻がをたとき、自分のでアパートを探しましたか? 私の実に度でもをげに来ましたか? 会社を休んで、由美の友関係を調べましたか?」
息が詰まる。 臓が、鐘を打つ。
「何もしなかったでしょう。張が忙しい、仕事できなプロジェクトを任されている、母さんがで寂しがっている……そうやって全部の責任を誰かに押し付けて、自分は被害者の顔をして、実でぬくぬくと温かいご飯をべていた。違いますか?」
「それは……」
反論の言葉が、どこにも見当たらない。 のが真っになり、指先がカタカタと震えた。
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「母親の嘘は、引きにすぎません」 真理さんの声が、さらに段くなった。
「由美を殺しかけたのは、あなた自の無関と、卑怯な逃げ腰です」
真理さんはバッグのファスナーをけた。 から取りされたのは、分いクリアファイルだった。 類の束が、バサリとテーブルの央に叩きつけられる。
「これを見てください」
番にあったのは、端が擦り切れ、表のビニールが剥がれかけた冊の帳だった。 いピンクと、。 『母子健康帳』。
交付は、の。 私と由美が、あの実のリビングで鳴りって別れた、わずかの付だった。
帳の横には、黄ばんだ病院の領収と、診断のコピーが何枚も並んでいた。
『切迫産』 『症妊娠悪阻』 『絶対静をす』
「由美はね、あなたがてった、実の玄関で倒れたんです」 真理さんの指先が、診断の付をく叩いた。
「血が止まらなくて、救急で運ばれた。お腹のにいたのは、じゃない。双子だった。医師からは『母体も危険だ、諦めるか、最悪のはとも……』とまで言われたんです」
目のが、暗転した。 の奥で、キーンという属音が鳴り響く。
「それでも、由美は産むと言った。『健さんの子供だから』って。あの、あの部で、点滴の針を両腕に刺したまま、泣きながらお腹を擦っていた妹の姿を、あなたに見せてやりたかったわ」