"リフォーム代二百万を払った実家に、他人が住んでいた" 第14話
「売却代は、正当な価格でさんから全額振り込まれました。 譲渡所得税の概算も、産さんと税理士の先に確認して、すでに別座に納税用として確保してあります。 そして……残ったおの使いも、すべて記録してあります」
母は指先で、几帳面に印字されたをなぞりました。
「このマンションの入居。 これからの賃分。 私が将来、けなくなったのための介護信託座への預け入れ。 そして、私の葬儀費用。 ……これらすべてを差し引いて、私の元に残っているのは、々の活費だけよ」
兄の線が、面に並んだ無質な数字を追いました。 そこに「余剰な」など、円たりとも転がっていないという厳な事実が、のに晒されていました。
「ゆ、由紀に……裏で何千万円も渡したんだろ!? この女が着したに決まってる!」
「由紀には、売買の数料も、贈与も、円も渡していません」
母はきっぱりと言い放ちました。
「由紀が私にしてくれたのは、役所へ付き添い、産さんの話を聞き、私のとなって緒に歩いてくれたことだけよ。 あの子は、私の財産なんて最初からこれっぽっちも欲しがっていないわ」
兄は言葉を失い、喉をヒクヒクと痙攣させました。 武器をすべて奪われ、振りげた拳のやりを失った子供のように、線があちこちに泳ぎ始めます。
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「で、でもよ……母さん……! 俺は、おの息子だぞ!? 俺が今、どれだけ困ってるか分かってんだろ!? 会社が潰れたら、俺は自己破産するしかねえんだ! 真由美にも逃げられて、む所も失うんだぞ! 親なら……親なら、息子を助けるのが当たりだろうが!!」
けない、泣き言でした。 男の特権を振りかざして威張り散らしていた男が、最には「親なら助けろ」と甘えの極みを叫んでいる。
その浅ましい姿を見つめる母の瞳に、わずかに浮かんだのは、りではありませんでした。 ただの、底れないい『諦め』でした。
母は静かにファイルを閉じ、バッグのへ戻しました。
そして、息子の目をまっすぐに見据えて、言言、噛み締めるように言いました。
「健」
「……な、なんだよ」
「私はね、あなたを学までし、のになるまで育てげたわ。 お父さんも私も、親としての責任は、とうの昔に果たしました」
母の声は、の澄んだ空気に染み渡るように響きました。
「お父さんがきていた頃、あなたの会社の借を埋めるために、私たちがどれだけの老資を差ししたか、覚えている? 度だって、返ってきたことはなかったわね。 それでも『男だから』と、お父さんは何も言わずに耐えていた」
兄の肩が、ビクッとねました。
「でもね、健。 私はあなたを産み育てたけれど……それはね」
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母は呼吸置き、凛と顔をげました。
「私の残されたや、きる尊厳まで、あなたに差しすというじゃないのよ」
息が止まりそうでした。
、夫のに隠れ、息子の儘に耐え、ただ黙って嵐が過ぎるのを待つだけだった母。 その母が、実の息子に対して、確に引いた絶対の境界線でした。
「私は、あなたのおを用てるための具ではありません。 真由美さんのお母さんの面倒を見るための無料の政婦でもありません。 私は、私のをきるために、あのを売ったの」
「か、母さん……」
「自分の蒔いた種は、自分で刈り取りなさい。 あなたが勝に結んだ契約の違約も、真由美さんのおも、あなたが自分で働き、をげて、自分の責任で返しなさい。 ……親にすがるのは、もうおやめなさい」
兄の顔から、すべてのが抜け落ちていきました。
もう、通用しない。 脅しも、泣き落としも、男という板も、この母親には切届かない。 その絶対な拒絶が、兄のを根底からへし折ったのが分かりました。
その、エントランスの自ドアがき、屈な体つきの男性警備員と管理さんがにてきました。
「奥さん、丈夫ですか!? 警察に通報しましたからね!」
管理さんの鋭い声に、兄は弾かれたようにずさりをしました。
母は管理さんに向かって、丁寧にをげました。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。 ……この方は、部者です。