"リフォーム代二百万を払った実家に、他人が住んでいた" 第13話
振り返った私の界にび込んできたのは、ボロボロに擦り切れたポロシャツを着て、無精髭を伸び放題にした兄の姿でした。
あの盂蘭盆のに着ていた派なスーツの面はどこにもありません。 目は血り、頬はげっそりと削げ落ち、体全体から汗と煙が混ざりった異様な悪臭を放っていました。
「お、お兄ちゃん……!? なんでここが……」
元から気がいがってきました。 所は親戚にも教えていなかったはずでした。 どこかで私のを尾したのか、あるいは役所の民票を無理やり辿ったのか。
兄は私を無し、濁った瞳をカッと見いて、母の正面へとち塞がりました。
「お袋……! 探したぞ、ずっと探したんだ!」
兄は叫びながら、母の腕を力任せに掴もうとを伸ばしました。
「やめて!」
私が反射にに入り、持っていた買い物袋を胸のに突きしました。
「触らないで! ここはお母さんのマンションよ! 法侵入で通報するわよ!」
「うるせえ! 引っ込んでろ由紀!」
兄は唾を撒き散らしながら鳴り返しました。 その声に、エントランスのガラス越しに管理さんが血相を変えてちがるのが見えました。
「俺のはめちゃくちゃだ! 真由美には婚届を突きつけられ、義理の親からは棒扱いされ、務からは弁護士をてられた! 全部、お袋のせいだろ!!」
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……は?
りを通り越して、を疑いました。 この男は、まだそんなことを言っているのか。
「お袋が勝にあのを売りばしさえしなければ、こんなことにはならなかったんだ! 俺は男だぞ!? あのを継いで、親父の墓を守る義務も権利もあったはずだ! それを、嫁にったこの女と結託して、裏でコソコソに換えやがって!」
兄は興奮のあまり、肩で荒い息を繰り返しながら、自分の胸ポケットからぐしゃぐしゃになった封筒を取りしました。 務からの督促状でした。
「を揃えて払えよ! あの百万は、真由美のだったんだ! 俺が嘘つき呼ばわりされて、庭を壊された慰謝料も含めて、今すぐあのを売ったから百万……いや、百万寄越せ! 親父の遺産はお袋もんじゃねえ、男の俺にも遺留分があるんだよ!!」
通りかかった所の主婦が、怯えた顔でを速めて通り過ぎていきます。
世体。 みっともない。 そんなが瞬脳裏をよぎり、私の指先が屈辱と恐怖でさく震えました。
兄はそれを見て、自分が優位にったと勘違いしたのでしょう。 元に醜い歪んだ笑みを浮かべ、さらに歩、母へと詰め寄りました。
「払えねえとは言わせねえぞ。 払わないなら、毎ここに押しかけてやる。 裁判を起こして、おらが寄りを騙して遺産を独り占めしたって、所に言いふらしてやるからな!」
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鳴り散らす兄のに。
スッと、歩、にるがありました。
母でした。
母は私の腕を優しく制し、兄のにちはだかりました。 逃げる様子も、怯える様子もありませんでした。
その背筋は、かつて父の病でで泣いていたとも、法の席で黙り込んでいたとも違っていました。 凛として、揺るぎない、の自したの背でした。
母は肩からかけていた皮の提げバッグのファスナーを、落ち着いた付きでけました。 そして、から冊の、みのある紺のクリアファイルを取りしました。
「な、なんだよそれ……」
兄が気圧されたように眉をひそめました。
母は無言のままファイルをき、番に挟まれていた類を兄の目のに突きしました。
『遺産分割協議(公正証謄本)』
「読みなさい、健」
母の声は、驚くほど静かで、平坦でした。 けれど、そのたさは、どんな鳴り声よりも鋭く兄の鼓膜を貫きました。
「これは、お父さんがくなった直に、あなたも実印を押した遺産分割協議よ。 預貯の配分、そして実の建物を私が単独で相続すること。 公証役で作成され、法に完全に確定しているよ」
「そ、そんなもん、形だけの類だろ! 男の俺が実質に……」
「形だけなんて法律は、この世にしません」
母はページをめくりました。
次に現れたのは、産売買契約の控えと、方の通帳のコピーでした。