"結婚記念日に渡された電車の片道切符" 第6話
その夜、直が帰宅するに、私は夫の私物を徹底にまとめた。
クローゼットから夫のスーツ、靴、着、ゴルフバッグを引っ張りし、きなダンボール箱3つに詰め込んだ。
そして、弁護士から預かってきた『別居』と、あらかじめ調べておいたウィークリーマンションのパンフレットを、玄関の駄箱のに並べた。
夜11半。
カチャリとドアがき、嫌そうな顔の直が入ってきた。
散乱するダンボール箱と、玄関にち塞がる私の姿を見て、夫は目を剥いた。
「……なんだこれ。何の真似だ」
「ここにサインして、荷物を持っててって」
私はボールペンを差しした。
「はあ!? お、狂ったのか!? ここは俺が賃を払ってるだぞ!」
「賃貸契約の名義はあなたでも、敷をしたのは私の座です。財具も、私が買ったものがい。それに、美咲の受験が終わるまで、この環境を変えるわけにはいかないわ」
「美咲を盾にする気か! 親父を追いすなんて、母親として恥ずかしくないのかよ!」
直が鳴り声をげた瞬、奥の部から美咲が歩みてきた。
え切った目で、まっすぐに父親を見据える。
「お父さん、てって。うるさい」
直の顔から、瞬で血の気が引いた。
「み、美咲……お、何を言ってるんだ……」
「全部ってるから。お母さんをいじめるお父さんなんて、いらない」
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夫のが魚のようにパクパクと閉した。
誰も自分の方がいない。
見し、支配していたはずの女たちが、徹な壁となって自分を排除しようとしている。
プライドを々に砕かれた夫は、震えるで駄箱ののをひったくり、ダンボールの取っを乱暴に掴んだ。
ドアノブにをかけ、最に私を憎々しげに睨みつける。
「……悔するなよ、由美」
吐き捨てるような、掠れた声。
「40過ぎて、子連れで、ただの事務員のおに何ができる!? ひとも経たないうちに泣きついてきても、絶対に許さねえからな!!」
バタンッ!!
暴力な音をてて、ドアが閉まった。
い音が階段を駆けり、やがて夜の静寂のに消えていく。
静かだった。
15、私を縛り付けていた鎖が、音をてて砕け散った瞬だった。
私は美咲と顔を見わせ、く、く息を吸い込んだ。
部に満ちていた淀んだ空気が、しずつ澄んでいくのが分かった。
別居して2週が過ぎた頃から、スマートフォンの着信ランプが狂ったように点滅し始めた。
画面にる名は、直。
以なら、仕事にかかってくる夫からの話には臓がね、慌てて湯に駆け込んでていた。
今は違う。
デスクの引きしに端末を放り込み、終業のチャイムが鳴るまで度も画面をかなかった。
退勤、駅のベンチで留守番話を再すると、受話器越しに夫の苛った声が吹き込まれていた。
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『おい、由美! の命保険の控除証、どこに置いたんだよ!』
『おい、会社の財形貯蓄の類が見当たらない! どこの引きしだ!?』
『おい、今の美咲の塾の振込用が届いてないぞ! お、どういう管理してんだ!』
メッセージのすべてが、声とつ当たりだった。
呆れて、ため息すらなかった。
45歳にもなったの男が、自分の保険証がどこにあるのかすららない。
確定申告の控えも、帳も、パスポートの期限も、自分が着るワイシャツのクリーニングのタグすら、では何つ管理できない。
この15、夫は「仕事で稼いでいる」という免罪符を掲げて、活の臭い雑務をすべて私に丸投げしてきたのだ。
夫がで暮らすウィークリーマンションは、会社の最寄り駅から徒歩15分の、陽当たりの悪いワンルームだった。
度だけ、どうしても必な印鑑証を届けるために部の郵便受けへ投函しにったことがある。
隙から漏れていたのは、を突くコンビニ弁当の容器の臭いと、乾きの洗濯物の異臭だった。
夫から再び話がかかってきた。
私はたい夜に吹かれながら、静かに通話ボタンを押した。
「もしもし」
『お、何回話させれば気が済むんだ!!』
番、鼓膜を破るような鳴り声。
『までに提しなきゃいけない類が見つからないんだよ! にって探すから、今すぐ鍵をけろ!』