"意識のない母の家を売る夫、その時病室のベルが鳴った" 第14話
オートローンの焦げ付きが取引にれ渡り、の座は凍結。 事務所のシャッターには「臨休業」の張りが虚しく貼られ、義弟は連、サラと債権者からの督促話に怯えて方をくらました。
義母の千鹤は、さらに無残だった。
夫から受け取った100万円は、とうに親戚への借返済とリボ払いに消えていた。 返還を迫られた義母は、親戚に泣きついてを面しようとしたが、病院のデイルームで私が暴した部始終は、すでに親類縁者のにれ渡っていた。
「の親の命を値踏みしてに入れた汚いに、を貸すがどこにいるのか」
誰もがたく背を向けた。 世体と所の目を何よりも気にしていた義母は、親族から完全に孤し、はカーテンを締め切った自宅の団で、インターホンの音に怯えて震える々を送ることになった。
そして、ある曜の夕暮れ。
実の古い造の扉が、ガタガタと激しく揺すぶられた。
「真紀さん! 頼むからけて頂戴! ここにいるんでしょ!?」
インターホン越しに聞こえてきたのは、掠れ、裏返った義母の鳴だった。
私と奈緒が玄関ホールにつと、曇りガラスの向こうに、つのが見えた。 義母と、無精髭をやし、見るもなくやつれた義弟の亮介だった。
「真紀さん、お願いよ! 浩司が逮捕されちゃうのよ! 亮介のもめちゃくちゃよ! 族じゃないの! お願いだからあのを売って、みんなを助けてちょうだい!」
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義母は格子戸に爪をてるようにして泣き叫んだ。
「あんたの母親はもう助かったんでしょ!? ピンピンしてリハビリしてるんでしょ!? なら、もういいじゃない! くらい売ってくれたって罰は当たらないでしょ! お願いだから、私たちを見捨てないでぇッ!」
どこまでも、自分のことだけ。 の命と活を踏みにじり、奪おうとしていたことへの反省など、その叫びのどこにもなかった。 あるのは、自分がい、自分が助かりたいという、醜悪なエゴの残骸だけだった。
私が受話器を取ろうとしたその、横からすっとが伸びてきた。
奈緒だった。
娘は私のから受話器を受け取ると、迷いのない、徹な声でマイクに向かって言った。
「お父さんのせいで、私のおばあちゃんは殺されかけたんです」
の泣き叫ぶ声が、ピタリと止まった。
「お父さんも、おばあさんも、亮介おじさんも、全員軽蔑します。度と私のに現れないで。……次ここに来たら、今すぐ警察に通報します」
「奈緒ちゃん! おばあちゃんよ!? あんたの父親の――」
ガチャリ。
奈緒は容赦なく通話ボタンを切り、玄関のい鍵を内側から固く回した。 カチャリ、と属の噛みう音が、静かな玄関に響く。
から、義弟の悪態と、義母のみじめなすすり泣きが聞こえた。 だが、それもやがて、ざかる音と共に夜の静寂へと消えていった。
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奈緒は振り返り、私を見て、しだけ困ったように眉をげて笑った。
「……お母さん、これでよかったよね?」
「ええ」
私は娘のを胸に引き寄せ、く抱きしめた。
「これで、よかったのよ」
季節は巡り、々の葉が鮮やかな茜に染まる頃。
母が、退院の経過観察を兼ねた帰宅を許された。
タクシーのドアがき、私が母の脇を抱えてゆっくりとろす。 奈緒が荷物を抱え、りで玄関の鍵をけにった。
母の取りは、まだし覚束ない。 杖をつきながら、歩、また歩と、自分のでアプローチの敷を踏みしめていく。
カララ……と、玄関の引き戸がくよい音が響いた。
「おばあちゃん、おかえり!」
奈緒のるい声が、懐かしいの匂いとともに母を包み込んだ。
「……ただいま」
母の元が、柔らかく綻んだ。
リビングに入ると、窓からの柔らかなが差し込んでいた。 父の写真が飾られた仏壇のには、奈緒がけたリンドウの。 使い込まれた座卓の肌。 母が座り慣れた、縁側の藤の子。
すべてが、あののまま、何ひとつ奪われることなくそこにあった。
夫との婚は、先正式に成していた。 横領と詐欺未遂の罪に問われた元夫には、執猶予のない実刑判決がり、現は刑務所に収監されている。 背負った損害賠償と借の返済義務は、あの男ののように付きまとうことになるだろう。