"意識のない母の家を売る夫、その時病室のベルが鳴った" 第13話
夫が類を拾い集めながら、元をふらつかせてすがりつこうとした。
その、駐の入りから、激しいサイレンの音と共に青いが差し込んできた。 巡回のパトカーだった。 病院の警備員が、駐での声を聞きつけて通報していたのだ。
赤灯が、血のように染まった夫の胸元と、狂気に歪んだ顔を無慈に照らしす。
「……くそっ!」
夫は警察官がからりてくるのを見るなり、拾い損ねた類を踏み躙りながら、逃げるようにの奥へと駆けしていった。 夜のの暗がりに消えていくその背は、みじめで、滑稽で、れなほどさかった。
私はそのにち尽くし、え切った夜空を見げた。 く吸い込んだの空気が、焼けるようにかった肺の奥を、静かにましてくれた。
翌朝、私は公証役の公証と、法テラスを通じて紹介された弁護士を伴い、母の病を訪れた。
ベッドの背もたれを起こした母は、まだ半に麻痺が残っていたものの、昨よりもずっと落ち着いた表をしていた。 枕元には、さなテーブルが設えられている。
「子さんですね」
スーツを着た初老の公証が、穏やかな声で母に語りかけた。
「ご自の所されている、内のおよび建物について、に売却または譲渡の約束をされた覚えはありますか?」
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母は、ゆっくりと、けれど切の迷いなく首を横に振った。
「……ありません」
酸素マスクをした元から、はっきりとした声が紡がれる。
「あのいえは……おっとが、のこしてくれた……たいせつな、いえです。だれにも……うりません」
「娘さんの配偶者である、本浩司氏に、代理権を与えた事実はありますか?」
「……ありません。いっぽも……いえに、いれたくありません」
公証はさく頷き、元の調にサラサラとペンをらせた。
母の能力は瞭。 何者による制も脅迫もなく、自らの言葉で権利の帰属を主張している。 その事実が、公証のによって公な類――公正証として記録されていく。
「さん。これでお母様の財産は、法に完全に守られました」
弁護士が私に向き直り、力く言った。
「本氏が偽造したどんな類も、これで完全にくずになります。もし彼が今、これ以の接触を試みるなら、即座に接禁止命令の続きを取ります」
母が、自由なの代わりにを伸ばし、私の指をきつく握りしめた。 その温もりをじた瞬、私の胸の奥で、たく錆びついていた最の錠がれた。
「お母さん、ありがとう」
私は母のの甲に額を押し当てた。
「もう、何も配いらないからね」
そので、私は病院のロビーの子に座り、バッグから枚の緑の類を取りした。
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『婚届』
すでに私の署名と押印は済ませてあった。 親権の指定欄には、迷わず「奈緒」とき込んである。 私はその類をクリアファイルに収め、弁護士に託した。
「すべて、法に則ってめてください。けも、妥協も、切必ありません」
弁護士はく頷き、私の類を鞄へと収めた。
崩壊は、崩のようだった。
週け、夫の勤務先であるリフォーム会社は、夫に対する『懲戒解雇』を正式に発表した。 社内調査の結果、資材費の架空発注や請け業者からのキックバックなど、過数にわたる正の総額が判したのだ。 会社は即座に警察へ被害届を提し、夫は業務横領の疑いで任同を求められた。
それだけでは終わらなかった。
買主であった投資ファンドの野は、夫が期までに500万円を返還しなかったことを受け、夫の個座の差し押さえと、詐欺未遂罪での刑事告訴に踏み切った。
そして、その500万円の「分け」を貪りっていた義母と義弟にも、容赦のない現実がを剥いた。
野の代理弁護士から、義弟の亮介と義母の千鹤宛てに、当利得返還請求の内容証郵便が叩きつけられたのだ。 『違法に詐取された員であることをりながら、あるいはな過失によって受領した銭について、直ちに全額の返還を求める』。
義弟の古に、返還するなどあるはずもなかった。 見栄を張るためににして契約したばかりのレクサスは、契約履で即座に引き揚げられた。