"意識のない母の家を売る夫、その時病室のベルが鳴った" 第5話
聞いてるの?」
「ま、真紀……頼む、ここでは勘弁してくれ」
夫は掠れた声で、私の元にすがるように顔をげた。 充血した両目が、怯えと卑しさに濁っている。
「護師も見てる……頼むから、で話そう。な? ちゃんと説する。全部話すから……!」
その元が刻みに震えていた。 、この男が見せてきた「頼れるの黒柱」の仮面が、音をてて剥がれ落ちていく。
私は何も言わず、子から夫の乱暴な字でかれた受領証の片を拾いげた。 つ折りにし、カバンにねじ込む。
病に戻り、母の様子を確かめる。 母は点滴のチューブに繋がれたまま、静かに呼吸を繰り返していた。 苦しそうに歪んでいた眉の皺は、私が握ったの温もりのせいか、わずかに緩んでいた。
「護師さん」
私はナースステーションのカウンターにち、静に告げた。
「母への面会ですが、今夜から、私と娘の奈緒以のち入りを切禁止してください。夫であっても、義理の族であってもです」
「……かしこまりました。厳に申し送りをしておきます」
護師の真剣な頷きを確認し、私は病院をた。
夜の午。 え切ったの空気が、を持った頬を突き刺す。 駐にめた軽自に乗り込み、エンジンをかけた。 助席のドアが乱暴にき、追ってきた夫が滑り込んでくる。
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内は、息が詰まるほどの沈黙に支配されていた。 夫は度も私を見ようとせず、爪を噛みながら、刻みに貧乏ゆすりを繰り返していた。
自宅のマンションに着いたのは、午半を回った頃だった。
リビングの灯りをつけると、見慣れたはずの部が、まるでの処のように気悪くえた。 宅リフォームの営業部としてそれなりの収入を得ていた夫。 方スーパーで経理のパートから正社員になり、コツコツと計を支えてきた私。 来には学受験を控えるの娘。
どこにでもある、平凡で、穏やかな庭のはずだった。
「さあ、座りなさいよ」
私がダイニングテーブルの子を引き、たく促すと、夫は肩をすくめながら向かい側に腰をろした。
「……真紀、るのも無理はない。でもな、俺だって悪気があってやったわけじゃないんだ」
番、夫のからたのはそれだった。
悪気。 わず、乾いた笑いが喉から漏れそうになった。
「悪気がないが、のを勝に売り払って、付で500万も受け取るの? しかも、母が集治療でにかけていた、まさにそのに」
「だから! それはお義母さんのためをってだな――」
「通帳をしなさい」
私の鋭い言に、夫の言葉が喉に詰まった。
「……え?」
「あんたの個座の通帳。それから、スマホのバンキングアプリの画面。
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今すぐここに見せなさい」
「な、なんでそんなもの……」
「見せないなら、今すぐさっきの野さんに話するわ。警察を呼んでもらって、公ので座を差し押さえてもらえばいい」
「待て! 分かった、見せる! 見せるから声をすな!」
夫は怯えたつきでポケットからスマートフォンを取りし、震える指でパスコードを解除した。 私はそれを奪い取るように引き寄せた。
私は経理だ。 、企業の帳簿を睨み、使途や正の痕跡を暴いてきたプロだ。 数字が並ぶ画面をスクロールする私の指先に、迷いはなかった。
画面に表示されたのは、先週曜の取引履歴。
【1114 タカノトウシ +5,000,000】
本当に、振り込まれていた。 産投資ファンドの代理、野の座から、確かに百万円の着記録。
だが、私の目を釘付けにしたのは、その直の記録だった。
着からわずか以内。 を挟むに、まるで最初から決まっていたかのように、複数の送がわれていた。
【1114 ヤマモト リョウスケ 振込 -2,000,000】 【1115 ヤマモト チヅル 振込 -1,000,000】 【1116 ローンヘンサイ -1,400,000】 【1116 ゲンキンヒキダシ -600,000】
現の残表示。
【残:14,280円】
……は?
血の気が引いて、界の端が真っになった。
「……何よ、これ」
スマートフォンの画面を夫の先に突きつけた。 画面を持つ私の親指が、刻みに痙攣していた。
「亮介に200万? お義母さんに100万? ……残りの200万はあんたの借返済? ……残、万千円?」
夫は両で顔を覆い、さく縮こまった。