"意識のない母の家を売る夫、その時病室のベルが鳴った" 第1話
「どうせくないんでしょ? 識が戻らないうちに、あの、さっさと売っちゃいなさいよ」
消毒液の匂いがをつく夜の病棟の廊で、義母は事も無げにそう言い放った。
にはブランド物のバッグ。 の輪も、果物のひとつも持っていない。
母が脳血で倒れ、救急搬送されてから目。 面会謝絶が解けた途端、初めて病院に姿を見せた義母のからたのは、私の母の否を気遣う言葉ではなかった。
「……お義母さん、なんてことを言うんですか」
私がに提げた買いしの袋―― 薬局で買ってきたばかりのおむつと、清拭用の濡れタオルの束が、カサリと音をてた。 指先が微かに震えていた。
けれど義母は、反省するどころか眉をひそめ、私を馬鹿にするようにを鳴らした。
「事実でしょ? 脳の血管が切れた過ぎの寄りよ。万が目を覚ましたって、どうせ寝たきりで言葉も喋れなくなるに決まってるわ。あの広いに建つ階建ての古い、誰もまないのに放っておくだけ無駄じゃない」
「母はまだ、きています」
喉の奥が引きつり、声がく震える。
「きてるうちに話をつけようとするから揉めるのよ! 識がない今だからこそ、浩司が代わりに続きをめてあげてるんじゃないの。真紀さん、あなた本当に領が悪いわね」
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その隣で、煙の匂いを染み付かせた義弟の亮介が、のキーを指先で回しながらニヤニヤと笑った。
「そうだよ、兄貴。あの駅の区画理、今が番の売りだろ? 発業者がを探して回ってるって話、俺のの客からも聞いたぜ。更にすりゃ、まとまったになる。グズグズしてたら値が落ちる方だ」
……値? まとまった?
臓が、嫌な音をててねた。
「あなたたち、体何の話をしているの?」
私が夫を見据えると、夫の浩司は気まずそうに線を泳がせ、わざとらしく咳払いをひとつした。
「真紀、おは黙ってろ。母さんの言う通り、将来の介護費用や施設代の算段を、俺が男の夫として現実に考えてやってるだけだ。素がを挟むな」
「男の夫……? あれは私の母のよ。父が遺して、母が守ってきたよ! どうしてあなたが勝に――」
「声がきい!」
夫が私の腕を乱暴に掴み、鋭い目線で睨みつけてきた。
「ここは病院だぞ。世体を考えろ。俺はおの族のためにいてやってるんだ。ありがたくえ」
ありがたくえ? 母が集治療からたばかりのこの所で? まだ点滴に繋がれ、目を閉じたままの母の命を、まるで期限切れのな良庫のように値踏みしておきながら?
界がりで真っ赤に染まり、にしていた袋をに叩きつけそうになった、その瞬だった。
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――ピピッ、ピピッ、ピピッ。
静まり返った廊に、甲い子音が響き渡った。
ナースステーションの表示盤が斉に点滅する。 個のドアので、赤いランプが激しく滅していた。
私の母の病だった。
「……え?」
義母の声がずった。
廊の奥から、バタバタと複数の音が駆け寄ってくる。 担当護師が青いスクラブを揺らしながらり込み、ドアを勢いよくスライドさせた。
「さんのご族ですね、ちょっと待でお待ちくだ――」
護師が病のに滑り込み、何事かを呟いた。 図モニターの規則な警告音が、廊まで漏れ聞こえてくる。
私たちは息を呑み、ドアのにち尽くした。
分、いや、体としては数分もの沈黙。
やがて、スライドドアが静かにいた。 てきた護師の額には、っすらと汗が滲んでいた。
「さん」
護師は、私だけをまっすぐに見つめた。
「お母様の識が、戻られました」
「……母が?」
「はい。バイタルも定しています。……それと」
護師は瞬だけを濁し、私の背につ夫と義母の顔を、測るような目で見やった。
「お母様、さっきからずっと、廊の会話が聞こえていらっしゃったようです」
義母の顔から、さっと血の気が引いていくのが見えた。
私は夫のを振りほどき、病へび込んだ。
いベッドの央に、母が横たわっていた。
管だらけの細い腕。 には分い包帯が巻かれ、で驚くほど痩せてしまった頬。